『ネコの博物図鑑』(原書房)

あなたのネコ、「謎の行動」をしませんか？
長い時間をかけて人間は野生のネコを家畜としてきました。
けれど、人間が火を「飼いならした」ように、ネコの野生を「封じ込めた」と言えるのでしょうか。
人間が愛してやまない動物であるネコを、生物学、行動、多様性など広範な観点から解明する新刊『ネコの博物図鑑』は、その問いに答えてくれるかもしれません。
野生のネコが人類のかたわらで飼いネコへと変貌していく興味深い道のりを、300におよぶ豊富な図版、画像や図表、美しい写真とともに、理解しやすく解説してくれます。
本書の前書きを特別公開します。

ネコの行動の本当の意味を知りたい！

大勢の人が愛猫家を公言する一方で、激しくきらう人もいる。
だがどちらにしても、だれもがネコについてはなにかしら一家言をもっているようだ。
そうした多くの意見にくわえて、野生から家畜化にいたるまでの進化のあいだに、ネコと取りまいてきたおびただしい神話や作り話もある。
そのなかで、どれが事実でどれが風説かを見分けるのはむずかしいだろう。

本書はネコの進化を追う中で、虚構と事実を多少とも選り分けている。
また、ネコについての最近の科学的発見を提供するとともに、ネコはなぜこのように特異的で魅力がつきないのか、さらにはネコが人間の世界にどのように適応しているのかについて多角的で本質的な考察を行なおうとしている。


第1章はネコ科が最古の肉食の哺乳類から進化した道筋をたどると同時に、およそ1万年前の肥沃な三日月地帯［東地中海からペルシャ湾におよぶ農業地帯］でつつましく始まったネコと人間の関係から、ネコがついに世界中に拡散するにいたるまでの過程を見ていく。イエネコの野生の先祖はどのようにして徐々に人間とかかわっていったのだろうか。

第2章は解剖学と生理学をふまえながら、ネコが肉食獣として自然生活にいかに見事に身体を適応させているかをみていく。また遺伝学についても考察し、自然突然変異と人工繁殖によって今や多様な種類のネコを誕生させている仕組みを追う。

ネコどうしのコミュニケーションや、さまざまな形の社会構造への適応能力といった、ネコが生きていくうえで手段としているものについては、第3章で詳しく見ていく。この章ではまた、子ネコが成猫に成長していく過程についても考える。

第4章ではネコと人間の関係を扱う。たとえば人間の気まぐれによってネコの運命は変わる。また、ネコがわたしたちに意志を伝えるために、ネコの言語をどう適応させ、わたしたちはそれに対しどのように応えているかを見るとともに、ネコと人間の関係の質を左右する要素にも注目する。

第5章では、狭苦しくなった世界での退屈、肥満、長寿など、現代のネコが直面する困難について考える。またその結果生じる問題を取り上げ、飼い主は問題をどのように解決し回避できるか、そしてイエネコの将来はどうなるかを論じる。

最後の第6章ではネコの繁殖の領域に足を踏み入れる。ネコの品種とは何か、新しい品種はどのように作られるかを解説したあとに、世界中のさまざまなネコ血統登録機関によって一般的に公認されている品種を選りすぐって紹介する。

ネコはわたしたちの世界に適応している。本書はそうした行動の本質について新たな理解を深めながら、この賢く好奇心が旺盛で、複雑な生き物に人々が心を開く一助になりたいと考えているのだ。

［書き手］サラ・ブラウン
1993年に、不妊手術をしたイエネコの社会的行動の研究で博士号を取得。以来、科学研究、ペット産業、保護団体など活動範囲を広げながら、ネコと飼い主にかかわりつづけている。
ダラム大学で動物学の学士号を取得後、サウサンプトンのヒトと動物の関係学研究所に勤務。博士号取得のための研究のかたわら、ペット産業のために飼いネコと野良ネコの給餌と社会的行動にかんする観察研究を続けた。
その後、ロンドンでネコの行動にかんする個人カウンセラーとして開業し、地元の獣医から紹介を受けて、クライアントの飼いネコの問題行動を解決に導いた。2020年にはシカゴに拠点を移してアメリカのペット用品メーカーのネコ行動コンサルタントとなり、行動学の知識を生かしておもちゃなどの製品の開発に貢献。イギリスへの帰国後は、引きつづきコンサルタント業に従事している。また、ウッド・グリーン・ザ・アニマル・チャリティの現場にも出て、ネコの里親探しに協力し、ネコの行動のあらゆる面について飼い主にアドバイスしている。
（角敦子訳）