本文抜粋

『ひきこもり図書館 部屋から出られない人のための12の物語』(毎日新聞出版)

  • 2021/03/01
ひきこもり図書館 部屋から出られない人のための12の物語 /
ひきこもり図書館 部屋から出られない人のための12の物語
  • 編集:頭木 弘樹
  • 出版社:毎日新聞出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(249ページ)
  • 発売日:2021-02-01
  • ISBN-10:4620326658
  • ISBN-13:978-4620326658
内容紹介:
究極のステイホーム文学集、誕生!『絶望名言』『絶望図書館』の名ガイドがおくる「部屋から出られない人々」のためのアンソロジー。
本書は「ひきこもり」をテーマに、小説、詩、マンガなどさまざまなジャンルの作品を集めたアンソロジーです。コロナ禍で外出自粛が呼びかけられる現在、ひきこもりは誰にとっても他人事ではない、切実な問題となりました。本書には、古今東西のひきこもった人びとの生活、心理、思考が描かれています。彼らの姿が今ほどリアルに迫ってくるときはありません。

ここでは、編者による「館長からのご挨拶」と収録作品「赤い死の仮面」の一部をご紹介します。

「ひきこもり図書館 館長からのご挨拶」

この図書館の目的は、ひきこもりを肯定することでも、否定することでもありません。ただ、ひきこもることで、人はさまざまなことに気づきます。心にも身体にもさまざまな変化が起きます。

そのことを文学は見逃さずに描いています。その成果をひとつに集めたいと思いました。

私自身、十三年間、ひきこもり生活を送りました。

その間、いろいろな本を読みました。その中には、自分がひきこもり生活の中で感じた、さまざまな思い、切実なんだけど、もやもやしてうまく言葉にできない思いが、見事に描かれていました。

それを読むことは、私にとって、大きな救いでした。

どの作品も、体験を凝縮した結晶のような素晴らしいものばかりです。ひきこもったことのある方もない方も、ぜひお読みください。

感染を避けるためのひきこもり――「赤い死の仮面」(エドガー・アラン・ポー)より

すでに長い間、〈赤い死〉が国じゅうを荒らし回っていた。これほどに確実な死をもたらす、おそろしい疫病はなかった。ぞっとするような血の赤さが、この病の象徴だった。鋭い痛みがおこり、急なめまいに襲われ、毛穴という毛穴からおびただしい鮮血を噴出させながら死にいたる。全身の皮膚に、特に顔面に赤い斑点があらわれたら最後、犠牲者は仲間から見捨てられることになった。助けをさしのべる者も、同情を寄せる者もいなくなるのだ。しかも急な発症から死まで、すべての過程が三十分のうちに起こった。

しかし、プロスペロー公は快活でおそれを知らない、聡明な人物だった。領民の半数が死に絶えると、廷臣の中でも体力があって陽気な騎士と貴婦人たちを、千人呼び集めた。そして彼らと共に、居城の奥深くにひきこもったのである。

それは、広大で華麗な建築だった。プロスペロー公自身の、風変わりではありつつも格調高い趣味を体現していた。堅牢で背の高い城壁が周囲を固め、出入りするためには鉄門をくぐらなければならなかった。廷臣たちは、持ち込んだ炉と巨大なハンマーを使ってかんぬきを内側から融かし固めた。それは強い決心のあらわれだった。中に入ってから絶望の発作に襲われたり、突如錯乱状態に陥ったりした場合にそなえて、出入りの道を断ったのである。城には、充分な食料の蓄えもあった。これだけ準備を整えておけば、伝染病などおそれるにたりない。ひきこもっているあいだに、外の世界がどうなろうがかまうものか。悲しみに暮れたり考えこんだりするなど、ばかばかしい。公爵はあらゆる愉しみを揃えていた。道化もいれば、即興詩人もいる。バレエ・ダンサーも、音楽家も、美人も、ワインも。内側にはこうしたもののすべてと、安全があった。ないのは、〈赤い死〉だけだった。

ひきこもり生活が、五カ月か六カ月目の終わりにさしかかった頃のことだ。その間、外では疫病の猛威が頂点を迎えていた。プロスペロー公は千人の仲間たちを招き、前代未聞の壮麗な仮面舞踏会を催した。

それは、贅沢のかぎりを尽くした舞踏会だった。(以下略)
 

[書き手]エドガー・アラン・ポー(品川亮・訳)
ひきこもり図書館 部屋から出られない人のための12の物語 /
ひきこもり図書館 部屋から出られない人のための12の物語
  • 編集:頭木 弘樹
  • 出版社:毎日新聞出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(249ページ)
  • 発売日:2021-02-01
  • ISBN-10:4620326658
  • ISBN-13:978-4620326658
内容紹介:
究極のステイホーム文学集、誕生!『絶望名言』『絶望図書館』の名ガイドがおくる「部屋から出られない人々」のためのアンソロジー。

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