自著解説

『武家手鑑 付旧武家手鑑』(八木書店)

  • 2022/01/31
武家手鑑 付旧武家手鑑 /
武家手鑑 付旧武家手鑑
  • 編集:前田育徳会尊経閣文庫
  • 出版社:八木書店
  • 装丁:大型本(232ページ)
  • 発売日:2021-12-21
  • ISBN-10:4840623775
  • ISBN-13:978-4840623773
内容紹介:
【高精細カラー版】平安末から江戸初期まで、著名な武将が発給した古文書を精選した手鑑
平忠盛・清盛・宗盛、源義朝・頼朝・義経、北条氏、足利氏、信長・秀吉・家康など、名だたる武将が発給した古文書を高精細カラー版で刊行!

加賀百万石、前田家が収集した古文書の精髄! その由来を紹介

前田綱紀による古文書収集

戦国武将前田利家を祖とする加賀前田家は、江戸時代に幕府から百万石を超える領国を拝領し、その財力をもって、多数の文物を収集した。特に、5代当主の前田綱紀(つなのり、松雲公・しょううんこう、1643~1724)は、古典籍・古文書を精力的に集め、新井白石をして「加賀は天下の書府」と言わしめるほどの収蔵量を誇った。

 

「武家手鑑」の作製


綱紀は、収集した古文書を「事林明証(じりんめいしょう)」「古蹟文徴(こせきぶんちょう)」といった形で整理・分類する一方、著名な武将の古文書を集め、台紙に貼った折帖の手鑑(てかがみ)を作製した。それが「武家手鑑」1帖であり、おそらく元禄年間(1688~1704)頃に完成したものと推定される。

「武家手鑑」には、平清盛・源頼朝など源平の武将から、鎌倉・室町時代の歴代将軍、武田信玄・上杉謙信・豊臣秀吉などの戦国武将までの署名・花押のある古文書173点(一部、和歌懐紙や短冊などのいわゆる古筆を含む)が収載された。

綱紀が作製した「武家手鑑」は、13代当主前田斉泰(なりやす、1811~1884)の時代、天保10年(1839)に修補、同12年に増補が行われ、収載数が206点となり、明治維新を迎えて前田家が東京に移住した後も、同家が所蔵した。

 

「尊経閣古文書纂」の編成


華族となった前田家は、旧加賀藩の歴史を編纂して『加賀藩史料』を刊行する一方、所蔵する古文書の再整理を行い、明治20年代(1887~1896)に、これまでの「事林明証」「古蹟文徴」など古文書群を解体して、新たに「尊経閣古文書纂(そんけいかくこもんじょさん)」として分類した。

「尊経閣古文書纂」は、おおきく「諸家文書」「社寺文書」「編年雑纂文書」の三つに分けられる。

「諸家文書」は、一条・飯尾・蜷川・堀・日置・加藤・野上・駒井・籠手田・天野・得田・得江・吉見・毛利・当家(前田)・中原といった公家・武家の古文書群、「社寺文書」は、石清水八幡宮・加茂社・仁和寺心蓮院・宝菩提院・東福寺・長福寺・大覚寺・大光明寺・高野蓮養坊・南禅寺慈聖院・天龍寺真乗院・天龍寺周悦関係・西興寺・園城寺実相院・清水寺・神護寺・青蓮院といった神社・寺院の古文書群からなる。

上記「諸家文書」「社寺文書」に分類できない古文書が「編年雑纂文書」で、そのうち内容でまとめられる古文書を「朝鮮文書」「外国文書」「俳人等文書」「宗教関係文書」として分類、年月日が分かる古文書は年次順に番号を付けて「編年文書」(伊・呂・波・仁・保・辺の6群に分類)、その他の年月日不明や断簡の古文書は「未定文書」(伊・呂・波・仁・保・辺・止・知・利・後鑑類の10群に分類)として整理した。

 

前田利為による綱紀顕彰


明治33年(1900)、前田家16代当主となった前田利為(としなり、1885~1942)は、5代綱紀の事蹟を顕彰して『加賀松雲公(かがしょううんこう)』3巻を編纂・刊行するとともに、綱紀に倣い、国内外の文物を積極的に収集し、陸軍武官として欧州滞在時には、公務の合間を縫って「オートグラフ(外国人自筆書翰)」を購入、自ら整理を行い、全8冊に編成している。

その一方で、大正12年(1923)の関東大震災により多数の文化財が焼失するのを目の当たりにして、同15年2月26日、公益法人育徳財団(現在の前田育徳会)を設立して、所蔵文化財の確実な保存管理に意を尽くした。

 

「武家手鑑」の再編成


利為は、昭和8年(1933)に所蔵する古筆手鑑類を通覧して、その整理を決意し、同14年頃に「武家手鑑」の再編成を企画する。「尊経閣古文書纂」や古筆手鑑などから新たに63点を採用、一つの台紙に原則一人の武将の古文書を捺すことにし、範囲も徳川家康や前田利家など江戸時代初期までの武将も加えることにした。

昭和16年(1941)頃に完成した新たな「武家手鑑」は、全3帖で各帖50人ずつ、上帖は、平清盛・源頼朝・足利尊氏など平安末期から室町初期(南北朝)、中帖は、足利義満・武田信玄・上杉謙信など室町中期から戦国前期、下帖は、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康など戦国後期から江戸初期、の武将が発給した古文書150点を採録している。また、新「武家手鑑」に採録されなかった古文書類108点は外されて、まくりの状態で「旧武家手鑑」として保管された。

戦後、上記古文書類は前田育徳会が保存管理を行い、「武家手鑑」3帖は昭和56年(1981)、「尊経閣古文書纂 編年文書」のうち奈良時代の古文書7点は「買新羅物解」として平成5年(1993)に、それぞれ重要文化財に指定されている。

 

『尊経閣善本影印集成』古文書編刊行の意義


この度、『尊経閣善本影印集成』(八木書店)の第10輯として、上記「武家手鑑」「旧武家手鑑」「尊経閣古文書纂」に、前田育徳会が所蔵する宸翰文書類(国宝「三朝宸翰」2巻など)を加えた、古代から江戸時代初期までの古文書約2500点を、全12冊に編成し、全点高精細カラー版で出版することになった。

加賀前田家に伝来した古文書類の全容が公刊されるのは、これが初めてである。中には、検討の余地がある古文書も含まれているが、それを除外することなく、あえて全点の画像を掲出することにした。本輯が歴史学・古文書学等の進展に少しでも寄与できれば幸甚である。

 
[書き手]菊池浩幸(きくち ひろゆき)・栁田甫(やなぎた はじめ)
公益財団法人前田育徳会に所属。前田育徳会尊経閣文庫編『尊経閣善本影印集成77 武家手鑑 付旧武家手鑑』(八木書店、2021年)で編纂・解説を担当。
武家手鑑 付旧武家手鑑 /
武家手鑑 付旧武家手鑑
  • 編集:前田育徳会尊経閣文庫
  • 出版社:八木書店
  • 装丁:大型本(232ページ)
  • 発売日:2021-12-21
  • ISBN-10:4840623775
  • ISBN-13:978-4840623773
内容紹介:
【高精細カラー版】平安末から江戸初期まで、著名な武将が発給した古文書を精選した手鑑

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

ALL REVIEWS

ALL REVIEWS 2022年1月31日

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
八木書店出版部の書評/解説/選評
ページトップへ