コラム

飯田 道子『ナチスと映画』(中央公論新社)、渡辺 将人『オバマのアメリカ 大統領選挙と超大国のゆくえ』(幻冬舎)、コリン・P. A. ジョーンズ『アメリカ人弁護士が見た裁判員制度』(平凡社) ほか

  • 2024/02/04

毎月150冊出る新書からハズレを引かないための 今月読む新書ガイド
(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2008年)

■01『ナチスと映画』飯田道子・著/中公新書

■02『オバマのアメリカ 大統領選挙と超大国のゆくえ』渡辺将人・著/幻冬舎新書

■03『アメリカ人弁護士が見た裁判員制度』コリン P. A. ジョーンズ・著/平凡社新書

■04『世論調査と政治 数字はどこまで信用できるのか』吉田貴文・著/講談社+α新書

■05『情報革命バブルの崩壊』山本一郎・著/文春新書

■06『朝鮮総連 その虚像と実像』朴斗鎮・著/中公新書ラクレ

■07『先生と生徒の恋愛問題』宮淑子・著/新潮新書

■08『破戒と男色の仏教史』松尾剛次・著/平凡社新書

■09『落語家はなぜ噺を忘れないのか』柳家花緑・著/角川SSC新書

■10『心の脳科学 「わたし」は脳から生まれる』坂井克之・著/中公新書

今回(11月発売分)の新刊は152冊。ソニー・マガジンズからビジネス系の「トレビズ新書」がこっそり創刊しました。創刊ラインナップは1冊だけ。

①大変な労作です。ナチスが当時まだ新しいメディアだった映画をプロパガンダに利用したことはよく知られています。いわばナチス自身によるナチスのイメージ操作ですが、他方、事後多数つくられた映画によってもナチスのイメージはさまざまに塗り替えられてきました。映画に描かれたイメージを集約することは、ナチスの実像に迫ることのように思われるものの、メディアが表象してきた「事実」以外に「実像」などないのです。ナチス映画のフィルモグラフィーとしても逸品。

ナチスと映画―ヒトラーとナチスはどう描かれてきたか / 飯田 道子
ナチスと映画―ヒトラーとナチスはどう描かれてきたか
  • 著者:飯田 道子
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(254ページ)
  • ISBN-10:412101975X
  • ISBN-13:978-4121019752
内容紹介:
第二次世界大戦で数千万もの人々を死に追いやったヒトラーとナチス。彼らは新興メディアだった映画をプロパガンダの最大の武器として活用した。一方で戦後、世界の映画産業は、わかりやすい「… もっと読む
第二次世界大戦で数千万もの人々を死に追いやったヒトラーとナチス。彼らは新興メディアだった映画をプロパガンダの最大の武器として活用した。一方で戦後、世界の映画産業は、わかりやすい「悪」の象徴として、ヒトラーとナチスを描き続ける。だが、時代とともに彼らの「評価」は変わっていく。本書は、第1部でナチ時代の映画を、第2部で戦後映画での彼らのイメージの変遷を描き、「悪」の変容と、歴史と「記憶」の関係を探る。

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②オバマが大統領選で勝利を収めるにいたった背景を、メディア戦略の変化、ネットの台頭、地域政治、オバマのアイデンティティなどから多角的に読み解いた出色の一冊です。日本人がこういうものを書くと海とメディア越しの隔靴掻痒なシロモノになりがちですが、01年の大統領選でゴア陣営に従事した経験にもとづく著者のアメリカ地域社会に対する深い理解によって、前著『見えないアメリカ』(講談社現代新書)同様、翻訳物とはひと味違う得難いアメリカ社会批評に仕上がっています。

オバマのアメリカ―大統領選挙と超大国のゆくえ / 渡辺 将人
オバマのアメリカ―大統領選挙と超大国のゆくえ
  • 著者:渡辺 将人
  • 出版社:幻冬舎
  • 装丁:新書(228ページ)
  • 発売日:2008-11-01
  • ISBN-10:4344981014
  • ISBN-13:978-4344981010
内容紹介:
なぜ、オバマなのか。莫大な金と労力を注ぎ込み、予備選、党大会などを経て、一年近くもの時間をかけ、アメリカ人は元首を選ぶ。2008年、第四四代大統領になったのは、弱冠四七歳ハワイ生まれ… もっと読む
なぜ、オバマなのか。莫大な金と労力を注ぎ込み、予備選、党大会などを経て、一年近くもの時間をかけ、アメリカ人は元首を選ぶ。2008年、第四四代大統領になったのは、弱冠四七歳ハワイ生まれのアフリカ系だ。人種も経歴もこんな「変わり種」が、ベテランのヒラリー、マケインを抑えて大統領として迎えられた。選挙にこそ、アメリカの今が現れる。気鋭の若手研究者が現地での綿密なリサーチを元に浮き彫りにする超大国の内実。

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③いよいよ眼前に迫ってきた裁判員制度。アメリカの陪審員制度とよく比較されますが、両者が本質的に異なった制度であることを、アメリカ人弁護士にして日本の大学で法学を教える著者がコンコンと指摘した一冊。最大の違いは「誰のための制度か」。裁判員制度は裁判官のための制度である――著者はそう結論します。

アメリカ人弁護士が見た裁判員制度 / コリン・P. A. ジョーンズ
アメリカ人弁護士が見た裁判員制度
  • 著者:コリン・P. A. ジョーンズ
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:文庫(240ページ)
  • 発売日:2008-11-15
  • ISBN-10:4582854435
  • ISBN-13:978-4582854435
内容紹介:
裁判員制度は国民のためのもの?実はそんな文言は裁判員法にはない!そこで、よくよく制度の中身を見てみれば、出てくる出てくる、数々の「謎」。いったいこの制度、誰のためのもの?「陪審制度の国」の法律家が説く、ちょっとシゲキ的な裁判員制度論。

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④著者は朝日新聞社で実際に世論調査に従事している人物。地味でやや薄味ながら、世論調査へのリテラシーを養うには手頃な一冊です。世論調査から見た歴代内閣のスナップとしても楽しめます。

世論調査と政治――数字はどこまで信用できるのか / 吉田 貴文
世論調査と政治――数字はどこまで信用できるのか
  • 著者:吉田 貴文
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(240ページ)
  • 発売日:2008-11-21
  • ISBN-10:4062725363
  • ISBN-13:978-4062725361
内容紹介:
支持率は本当に必要か。その真の役割とは。世論調査大国において、われわれは政治とどう向き合うべきか。その功罪を徹底検証。

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⑤「ウェブ2・0は終わった」的な本ではなく――まあ、それも論の一部としてはあるのですが――、「無料文化」が前提の「貧民の楽園」となったネットの終焉を予言し、インフラに対する適正な投資や、情報ダンピングの是正の要を説いた情報産業論です。ブロガーとしても超有名な著者一流の文章ですらすら読めてしまいますが、かなりハイレベルな黙示録。

情報革命バブルの崩壊 / 山本 一郎
情報革命バブルの崩壊
  • 著者:山本 一郎
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:新書(187ページ)
  • 発売日:2008-11-20
  • ISBN-10:4166606670
  • ISBN-13:978-4166606672
内容紹介:
革命的なビジネスモデルを引っ提げ、爆発的な成長を続けるかに見えるインターネット産業の世界は、暗澹たる時代に入った。戦慄の警鐘

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⑥朝鮮総連に深く切り込んだ、今後貴重な一級資料となりそうな一冊です。著者は同組織の元活動家で、理想と現実のあまりの乖離ぶりに呆れ離脱した人物。多少バイアスは感じられるものの、教育、カネの流れ、工作活動の実態などが、ここまで赤裸々に書かれる時代になったんですねえ。

朝鮮総連―その虚像と実像 / 朴 斗鎮
朝鮮総連―その虚像と実像
  • 著者:朴 斗鎮
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(269ページ)
  • ISBN-10:4121502981
  • ISBN-13:978-4121502988
内容紹介:
かつて希望に満ちていた朝鮮総連がなぜ、金日成・正日親子に忠実に従うだけの組織に成り下がってしまったのか。かつて朝鮮大学校で教鞭をとっていた著者だからこそ書ける、"転落"の軌跡。

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⑦扇情的な題材ながら硬派なルポルタージュです。いまどきは、先生が生徒とセックスしたらただちに「わいせつ行為」で懲戒免職処分になってしまうのですね。当事者たちへの取材から「先生と生徒の恋愛」に切り込んでいきます。

先生と生徒の恋愛問題 / 宮淑子
先生と生徒の恋愛問題
  • 著者:宮淑子
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:Kindle版(113ページ)
  • 発売日:2008-11-17

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⑧「戒律」に対する意識の移ろいから読み直す異色の日本仏教史です。なかでも重要な論点として詳述されるのが「男色」。かなり蔓延していたそうで、鎌倉時代の偉い僧侶・宗性など、100人以上の男と交わるのはよろしくないのでそろそろやめる、という誓文を書いていたほどだったとか。

破戒と男色の仏教史 / 松尾 剛次
破戒と男色の仏教史
  • 著者:松尾 剛次
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(207ページ)
  • 発売日:2008-11-15
  • ISBN-10:4582854419
  • ISBN-13:978-4582854411

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⑨タイトルはある意味で「釣」で、読んでも謎は解けません。が、騙された!という気分にはならないでしょう。落語家が、噺をどのように学び、自分のネタとし、さらには新しい息吹をいかに吹き込んでいくかといった「手の内」を開陳した、ありそうでない一冊。

落語家はなぜ噺を忘れないのか / 柳家 花緑
落語家はなぜ噺を忘れないのか
  • 著者:柳家 花緑
  • 出版社:角川SSコミュニケーションズ
  • 装丁:新書(191ページ)
  • 発売日:2008-11-01
  • ISBN-10:4827550530
  • ISBN-13:978-4827550535
内容紹介:
落語家が高座に上がるまでにやっていること、高座の上で考えていることを、自らをモデルに明かす。タイトルの「落語家はなぜ噺を忘れないのか」に始まり、「どうやって噺を面白くするのか」「… もっと読む
落語家が高座に上がるまでにやっていること、高座の上で考えていることを、自らをモデルに明かす。タイトルの「落語家はなぜ噺を忘れないのか」に始まり、「どうやって噺を面白くするのか」「どんな噺が難しいのか」等々、落語にまつわる創意工夫を公開。あまり明かされることのない、落語家の頭の中、手の内を見せる。祖父であり、人間国宝ともなった五代目柳家小さんからの教えも随所に登場。柳家一門および一門を超えて受け継がれていく落語の伝承が感じられる一冊。

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⑩意識と脳をめぐる「心脳問題」にパラダイムシフトを予感させる内容です。脳画像研究という、脳の地図をもとに解析された知覚や知性、記憶などについての知見を報告する書なのですが、そこから導かれる〈「わたし」とは何か〉に対する仮説は、われわれの認識をガラッと塗り替えそうなポテンシャルを秘めています。第一章と終章から読むのがベター。

心の脳科学―「わたし」は脳から生まれる / 坂井 克之
心の脳科学―「わたし」は脳から生まれる
  • 著者:坂井 克之
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:新書(282ページ)
  • 発売日:2008-11-25
  • ISBN-10:4121019725
  • ISBN-13:978-4121019721
内容紹介:
ふと何かを思いつき、考えた末に決断する。結果、喜んだり後悔したり…。これらはすべて、脳の働きのおかげである。そうだとすると、脳活動を読み解くことができれば、その脳の持ち主の思考や感… もっと読む
ふと何かを思いつき、考えた末に決断する。結果、喜んだり後悔したり…。これらはすべて、脳の働きのおかげである。そうだとすると、脳活動を読み解くことができれば、その脳の持ち主の思考や感情を読み取れるのでは?そして、思考や感情の主体である「わたし」とは何かについても明らかにできるかもしれない。本書は、脳画像研究の方法から最新の成果までを紹介。脳科学によって、未来はどう変わりうるのだろうか。

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