内容紹介

『枕草子の楽しみかた』(祥伝社)

  • 2024/05/04
枕草子の楽しみかた / 林 望
枕草子の楽しみかた
  • 著者:林 望
  • 出版社:祥伝社
  • 装丁:新書(312ページ)
  • 発売日:2023-11-01
  • ISBN-10:4396116896
  • ISBN-13:978-4396116897
内容紹介:
作家・三浦しをんさん推薦!こんなに現代人の気持ちを代弁してくれるなんて、清少納言はエスパーかなにかなんだろうか。「美麗で美声なお坊さんに、ついうっとり」って、コンサートに行っ… もっと読む
作家・三浦しをんさん推薦!
こんなに現代人の気持ちを代弁してくれるなんて、
清少納言はエスパーかなにかなんだろうか。
「美麗で美声なお坊さんに、ついうっとり」って、
コンサートに行ってアイドルのきらめきに圧倒される我々と同じである。

十五の講義で徹底解説
『枕草子』全三百十九段から読みどころを精選。清少納言の鮮やかな筆が、『源氏物語』全五十四帖の現代語訳『謹訳 源氏物語』の著者林望の解説と現代語訳で甦る。「今どきの親は……」と嘆く場面もあれば、男女の恋心の機微や、宮廷サロンの雅な情景、はたまた男の不条理さを責め立てたり、男に騙される若い女房たちに苦言を呈したり、抱腹絶倒の笑い話もあり。学校では教わらない古典随筆の名著の本質に触れられる絶好の入門書。著者の古典の知識と人間への深い洞察による解説は必読。本書一冊で、『枕草子』の世界が語れるようになる。

(以下、目次より)
・清少納言ほど口の悪い人はいない?
・「暁の別れ」は未練たっぷりでいてほしい
・庭の草木を目の前で盗まれて
・男ってものは、つくづく油断ならない
・お坊さんは美男が良いに決まってる
・齊信の口説き文句
・今どきの母親ときたら
・『古事談』の不思議な話
・老後の理想の住まい
・色好みの男の「戦略」
・中宮定子の優しい心づかい
・関白家の御曹司、伊周
・夢のような宮廷サロン……ほか
日本古典文学大系『枕草子』第二九九段「雪のいと高う降りたるを」の段のエピソードが大河ドラマでも放送され、話題になりました。『枕草子』では「雪」に関するエピソードも、さまざま取り上げられています。しかしながら、平安文学は、文章に省略やねじれなどが多く、なかなか原文では正確に読み下せません。そこで、『謹訳 源氏物語』の著者林望さんが、その解説と現代誤訳で、随筆文学の金字塔『枕草子』の楽しみかたを、わかりやすく講義。大河ドラマで描かれる平安宮廷サロンがよくわかります。今回は、『枕草子の楽しみかた』(林望著、祥伝社刊)から「はじめに」と本書の一部をご紹介します。

大河ドラマで描かれる宮廷サロンがよくわかる!清少納言『枕草子』の楽しみかた

当時の宮廷生活のありようが、リアルに伝わってくる、随筆文学の金字塔

日本文学の長い歴史のなかで、特に平安時代は女性の書いた文学の花盛りであった。紫式部の『源氏物語』はいうまでもないことだが、随筆文学の金字塔ともいうべき、清少納言の『枕草子』もまた、まったく違った意味で、すばらしい達成の一つであった。
ただ、『源氏物語』が当時の宮廷貴族世界を舞台とする「創作」であったのと対照的に、『枕草子』は、どこまでも清少納言の見聞きした貴族社会の実相をありのままに書き残した記録で、その意味で当時の宮廷生活のありようが、いきいきとリアルに伝わってくる。
ただし、清少納言という人の視線は、徹頭徹尾「女性から見て」のそれであって、そこからまた、当時の男達のありさまなども、まことに呆れるほど現実的に正直に活写されている。それゆえ、これをよく嚙み分けて、じっさいどんな情景だったのだろうか、とあたかもドラマの一場面を想像するようにして読んでいくと、ほんとうに生々しく面白い。
しかも清少納言は、ユーモアのセンスも豊かな人であったと見えて、ついつい引き込まれて笑ってしまうような場面もあちこちにある。それなのに、よく考えずに表面の語義だけを「わかった」というだけの読み方では、せっかくの面白さが味わえないにちがいない。読むについては、豊かな想像力を働かせて、場面や、その空気をまでも脳裏に再現しながら読んでいくと、興趣まさに尽きぬものがある。そういう「場面の再現」の手助けとして、私はこの本を書いたのである。
以下、本書から一部を抜粋してお目にかける。


貴族サロンの優雅な思い出

「夜中暁(あかつき)ともなく、門(かど)もいと心かしこうももてなさず、なにの宮、内裏(うち)わたり、殿(との)ばらなる人々も出(い)であひなどして、格子(かうし)などもあげながら冬の夜をゐ明かして、人の出(い)でぬるのちも見いだしたるこそをかしけれ。有明(ありあけ)などは、ましていとめでたし。笛など吹きて出でぬる名残(なごり)は、いそぎてもねられず、人のうへどもいひあはせて歌など語り聞くままに、寝入りぬるこそをかしけれ。」(原文、日本古典文学大系『枕草子』第一七九段)

(現代語訳)
――夜中になっても暁になっても、門をさまで厳重に締めるということもなく、何とかの宮様方の女房だとか、内裏(だいり)勤めの御方だとか、しかるべき殿がただとか、みなどこかのお邸(やしき)に参り集まって、格子(こうし)の蔀戸(しとみど)なんかも閉めずに上げたままにしておき、長い冬の夜をゆるゆると物語などして過ごし、朝になって男の人たちが出ていってしまっても、そのあとをいつまでも見送ったりしているのは、気がねがなくてほんとに気持ちが良い。
明け方の空に月が出ている、などというのは、まことに申しぶんのない情景である。素敵な男の方が、帰りがけに笛など吹きすさびながら去っていったりすると、その心の名残のままに、女たちは、どうしてもすぐには寝られるものでない。そこで、みんなであの方この方の噂話などしながら、そういえば、そのときこんなお歌を詠まれたそうよ、などと語ったり聞いたりしながら、いつのまにか眠ってしまった、なんてのはほんとに気持ちの良い思い出である。

なんだか、その場に、自分も居合わせたかったなあと思わせてくれるような、平安朝の貴族サロンの雰囲気である。清少納言にとって、こういう空気こそは、理想の世界、いわば生きながらの極楽ともいうべきところがあったのにちがいなかろう。
さて、この笛を吹きながら帰っていった貴公子というのは、誰であろう。美男で知られた藤原実方(さねかた)であろうか、それとも清少納言にとって最大のアイドルだった藤原齊信(ただのぶ)その人でもあったろうか。想像はそれからそれへと広がって、しばし美しい夢を見せてくれるのである。

*日本古典文学大系『枕草子』(岩波書店)
本稿は、『枕草子の楽しみかた』(祥伝社新書)「はじめに」「第10講」をもとに編集

[書き手]林望
枕草子の楽しみかた / 林 望
枕草子の楽しみかた
  • 著者:林 望
  • 出版社:祥伝社
  • 装丁:新書(312ページ)
  • 発売日:2023-11-01
  • ISBN-10:4396116896
  • ISBN-13:978-4396116897
内容紹介:
作家・三浦しをんさん推薦!こんなに現代人の気持ちを代弁してくれるなんて、清少納言はエスパーかなにかなんだろうか。「美麗で美声なお坊さんに、ついうっとり」って、コンサートに行っ… もっと読む
作家・三浦しをんさん推薦!
こんなに現代人の気持ちを代弁してくれるなんて、
清少納言はエスパーかなにかなんだろうか。
「美麗で美声なお坊さんに、ついうっとり」って、
コンサートに行ってアイドルのきらめきに圧倒される我々と同じである。

十五の講義で徹底解説
『枕草子』全三百十九段から読みどころを精選。清少納言の鮮やかな筆が、『源氏物語』全五十四帖の現代語訳『謹訳 源氏物語』の著者林望の解説と現代語訳で甦る。「今どきの親は……」と嘆く場面もあれば、男女の恋心の機微や、宮廷サロンの雅な情景、はたまた男の不条理さを責め立てたり、男に騙される若い女房たちに苦言を呈したり、抱腹絶倒の笑い話もあり。学校では教わらない古典随筆の名著の本質に触れられる絶好の入門書。著者の古典の知識と人間への深い洞察による解説は必読。本書一冊で、『枕草子』の世界が語れるようになる。

(以下、目次より)
・清少納言ほど口の悪い人はいない?
・「暁の別れ」は未練たっぷりでいてほしい
・庭の草木を目の前で盗まれて
・男ってものは、つくづく油断ならない
・お坊さんは美男が良いに決まってる
・齊信の口説き文句
・今どきの母親ときたら
・『古事談』の不思議な話
・老後の理想の住まい
・色好みの男の「戦略」
・中宮定子の優しい心づかい
・関白家の御曹司、伊周
・夢のような宮廷サロン……ほか

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