書評

『エマニュエル・トッドの冒険』(藤原書店)

  • 2024/05/07
エマニュエル・トッドの冒険 / 石崎 晴己
エマニュエル・トッドの冒険
  • 著者:石崎 晴己
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(616ページ)
  • 発売日:2022-11-29
  • ISBN-10:4865783644
  • ISBN-13:978-4865783643
内容紹介:
トッド日本紹介の第一人者による、その思想への最良の手引き!!家族人類学・歴史人口学の研究成果から、ソ連崩壊、アメリカ衰退、アラブの春、移民問題など、現代世界について数々の予言をして… もっと読む
トッド日本紹介の第一人者による、その思想への最良の手引き!!
家族人類学・歴史人口学の研究成果から、ソ連崩壊、アメリカ衰退、アラブの春、移民問題など、現代世界について数々の予言をしてきたE・トッド。
その主要著作『最後の転落』『新ヨーロッパ大全』『帝国以後』『家族システムの起源』等の邦訳を手がけてきたトッド日本紹介の第一人者が、彼の波乱に満ちた挑戦と冒険の全貌を読み解く。
最新作『われわれは今どこにいるのか?』の詳細な要約・紹介も収録!!

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【目次】
〈プロローグ〉二つのトッド――トッド理論の展開と変遷

第Ⅰ部 トッドⅠ――共時態の設定
第1章 トッド理論の形成
第2章 家族システム一覧
第3章 トッド理論の展開Ⅰ――西ヨーロッパ史のアウトライン
第4章 トッド理論の展開Ⅱ――近代イデオロギーの出現とその消長
第5章 民主主義の暗い起源
第6章 移行期危機と識字率ディストピア
第7章 二つのフランスか?  多数のフランスか?
第8章 方法論的反省――家族的価値の伝達はいかになされるか

第Ⅱ部 トッドⅡ(『家族システムの起源』)――通時態への挑戦
第1章 転換
第2章 共同体家族の謎
第3章 総論、もしくは「プロレゴメナ」
第4章 基本モデル――中国とその周縁部としてのユーラシア・ステップ
第5章 各論1 各地域の共同体家族の形成
第6章 各論2 母系制の問題
第7章 ヨーロッパの直系家族的概念空間(絶対核家族の出現)
第8章 婚姻制度 イトコ婚
第9章 構造主義批判、レヴィ=ストロース批判
第10章 日本

第Ⅲ部 『われわれは今どこにいるのか』を読む

あとがき
エマニュエル・トッド年表
トッド著作一覧
トッド関連の日本での刊行書
参考文献
図表一覧
人名索引

世界史左右 「家族システム」の発見

われわれ日本人は同調圧力に弱いというが、学究の徒も例外ではない。新しい物の観方(みかた)や説明の仕方をすることに慎重で、これまでのやり方を多少ズラすくらいで済ませがちである。だから、フランスのエマニュエル・トッドのような学者はなかなか出ないのではないか。

なにしろ肩書だけでも、人類学者、経済学者、歴史学者、社会学者、人口統計学者、地政学者、政治アナリストなどと冠されるのだから、その多様な知的活動の創造力は半端ではない。それでも、トッドの学究の基礎となるものは、まずは家族システムの人類学であり、次に人口統計学であろう。本書は、彼の著作の大半を翻訳し、日本に紹介してきた比類ない研究者による最良の手引である。

現代最高の知性のひとりトッドは、評者と同じく団塊の世代に属する。われわれの青春時代には、ソ連を中心とする社会主義圏はどっしりと安定しており、やがて地球規模で席巻しかねないほどの勢いがあった。そのころ、留学先のケンブリッジ大学に博士論文を提出したばかりの25歳の青年が、『最後の転落』(原著1976年公刊)と題する気鋭のデビュー作で、来たるべきソ連の崩壊を予言したのは、とんでもなかった。

トッドの歴史人口学の要点は、なにはともあれ家族システムと心性に因果関係があることの発見であろう。すでに、産業革命以前から、イングランドでは核家族が存在しており、それに基づいて個人主義が生まれたと指摘されていた。これに対して、トッドは、家族システムは単一ではなく多様であるが、それらは類型化できると見通した。さらに、それらの家族システムの全世界規模での分布を確定し、それらと住民の心性との関係を見出すことがトッド理論の核心をなす。

そもそもソ連崩壊の予言が、人口統計学の資料の解読によるのだから、驚愕である。ソ連の70年代における乳児死亡率と自殺などの変死死亡率の上昇は、トッドの予言の発端だったという。全体主義体制が順調に運行されていれば、乳児死亡率は低下し、変死死亡率が上昇するものだが、それが同時に上昇していたため、その並行は強権国家社会の解体を示唆すると見なしたのである。そこには感傷的な道徳的批判などみじんもない冷静な推察があったのだ。

この背後には、各地域の家族システムは安定しており、その土台の上に、近代における宗教とイデオロギーが展開し変遷するという共時態がある。これを前提にして、やがてトッドは家族システムが変動し変遷することに注目し、近代のみならず世界史および現代世界を解明する作業にとりかかる。

この変動・変遷に目を向けると、これらの社会の原動力として大衆識字化があるという。経済発展に先行して識字化という文化発展がある。市民の大部分が読み書き能力を獲得することで国民=民族が成立し、これが民主主義の条件となる。それとともに、読める青少年と読めない高齢者との社会的分断がおこり、革命にいたることがある。女性の識字化は出生率の低下をもたらすことにもなる。

これらの冒険をふまえ、本書の最後には「『われわれは今どこにいるのか』を読む」とある。この最新作の紹介を本欄掲載の佐藤優氏の筆に委ねられるのは幸いだ!
エマニュエル・トッドの冒険 / 石崎 晴己
エマニュエル・トッドの冒険
  • 著者:石崎 晴己
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(616ページ)
  • 発売日:2022-11-29
  • ISBN-10:4865783644
  • ISBN-13:978-4865783643
内容紹介:
トッド日本紹介の第一人者による、その思想への最良の手引き!!家族人類学・歴史人口学の研究成果から、ソ連崩壊、アメリカ衰退、アラブの春、移民問題など、現代世界について数々の予言をして… もっと読む
トッド日本紹介の第一人者による、その思想への最良の手引き!!
家族人類学・歴史人口学の研究成果から、ソ連崩壊、アメリカ衰退、アラブの春、移民問題など、現代世界について数々の予言をしてきたE・トッド。
その主要著作『最後の転落』『新ヨーロッパ大全』『帝国以後』『家族システムの起源』等の邦訳を手がけてきたトッド日本紹介の第一人者が、彼の波乱に満ちた挑戦と冒険の全貌を読み解く。
最新作『われわれは今どこにいるのか?』の詳細な要約・紹介も収録!!

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【目次】
〈プロローグ〉二つのトッド――トッド理論の展開と変遷

第Ⅰ部 トッドⅠ――共時態の設定
第1章 トッド理論の形成
第2章 家族システム一覧
第3章 トッド理論の展開Ⅰ――西ヨーロッパ史のアウトライン
第4章 トッド理論の展開Ⅱ――近代イデオロギーの出現とその消長
第5章 民主主義の暗い起源
第6章 移行期危機と識字率ディストピア
第7章 二つのフランスか?  多数のフランスか?
第8章 方法論的反省――家族的価値の伝達はいかになされるか

第Ⅱ部 トッドⅡ(『家族システムの起源』)――通時態への挑戦
第1章 転換
第2章 共同体家族の謎
第3章 総論、もしくは「プロレゴメナ」
第4章 基本モデル――中国とその周縁部としてのユーラシア・ステップ
第5章 各論1 各地域の共同体家族の形成
第6章 各論2 母系制の問題
第7章 ヨーロッパの直系家族的概念空間(絶対核家族の出現)
第8章 婚姻制度 イトコ婚
第9章 構造主義批判、レヴィ=ストロース批判
第10章 日本

第Ⅲ部 『われわれは今どこにいるのか』を読む

あとがき
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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2022年12月24日

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