書評

『終りの日々』(みすず書房)

  • 2024/05/17
終りの日々 / 高橋 たか子
終りの日々
  • 著者:高橋 たか子
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(296ページ)
  • 発売日:2013-12-21
  • ISBN-10:4622078031
  • ISBN-13:978-4622078036
内容紹介:
2013年7月12日、作家高橋たか子は晩年を過ごした茅ヶ崎の老人ホームで亡くなった。階段で倒れているところを見つけられたときには、息はもう無かった。外傷も見当たらず、おそらく心臓発作に… もっと読む
2013年7月12日、作家高橋たか子は晩年を過ごした茅ヶ崎の老人ホームで亡くなった。
階段で倒れているところを見つけられたときには、息はもう無かった。
外傷も見当たらず、おそらく心臓発作によるものらしい。

部屋に遺された原稿用紙の束の中に、「死後、活字にするもの」と
表紙に書かれた8冊の日記があった。
本書は最晩年の独り居のなかで、その日その日に思ったことを綴ったその日記の公刊である。
先輩作家たちはすでに無く、奇妙な友情で結ばれていた大庭みな子もこの世を去る。
朝の聖書朗読、思索、読書、執筆……ときに過ぎた日のことを思い出し、
現代の日本社会を慨嘆する。ここに遺されたのは、
日常生活の記録ではなく魂のドキュメントとでも呼ぶべき文章群である。
高橋たか子の私設秘書の役を果たした鈴木晶の解題を付す。
装幀は高橋作品を多くてがけた菊地信義。

自分の内部、諦念交えて洞察

最初にこう書いてある。「死の日まで、と思って書く。いま七十四歳。でも、四十八歳としよう。パリへすっかり行ってしまった年齢だ。あの時に私は居なくなったのだから」と。

日付は2006年6月15日。記述は、5年ほど続いた。死の直前まで、とはいかなかったが、2010年までの「終りの日々」が静謐な筆致で綴られている。

フランスの修道院で暮らした日々への追憶、愛するフランスの作家や思想家たちのこと、いま生きている自分をどのように捉えるか、といった、自分の内部を深く洞察するような文章がほとんどだ。どこか、諦念も交じっている。

作家自身はもう少し手を入れる意志があったようだが、ほぼ原文のまま、という。

とにかく、フランス、いやヨーロッパにいたかった人なのだな、というシンプルな感想しか浮かばない。高橋たか子は「この世」と合致しない(そう書いている)。ヨーロッパにも「この世」はある。だが、その「この世」は底が抜けて、その先に純なものがみえる、と高橋は書いている。思い出だけを虚飾を排して書き残す姿勢が、心に残る。


終りの日々 / 高橋 たか子
終りの日々
  • 著者:高橋 たか子
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(296ページ)
  • 発売日:2013-12-21
  • ISBN-10:4622078031
  • ISBN-13:978-4622078036
内容紹介:
2013年7月12日、作家高橋たか子は晩年を過ごした茅ヶ崎の老人ホームで亡くなった。階段で倒れているところを見つけられたときには、息はもう無かった。外傷も見当たらず、おそらく心臓発作に… もっと読む
2013年7月12日、作家高橋たか子は晩年を過ごした茅ヶ崎の老人ホームで亡くなった。
階段で倒れているところを見つけられたときには、息はもう無かった。
外傷も見当たらず、おそらく心臓発作によるものらしい。

部屋に遺された原稿用紙の束の中に、「死後、活字にするもの」と
表紙に書かれた8冊の日記があった。
本書は最晩年の独り居のなかで、その日その日に思ったことを綴ったその日記の公刊である。
先輩作家たちはすでに無く、奇妙な友情で結ばれていた大庭みな子もこの世を去る。
朝の聖書朗読、思索、読書、執筆……ときに過ぎた日のことを思い出し、
現代の日本社会を慨嘆する。ここに遺されたのは、
日常生活の記録ではなく魂のドキュメントとでも呼ぶべき文章群である。
高橋たか子の私設秘書の役を果たした鈴木晶の解題を付す。
装幀は高橋作品を多くてがけた菊地信義。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2014年2月5日

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