坂を下った経緯切り込む
企業が衰退、凋落する原因は、その多くが戦略の誤謬やお家騒動などの「経営の失敗」によると考えられる。数々の新技術で世界を驚かせたソニーは、いったい、なぜ、坂を下っていったのか。本書は表題にあるようにズバリ「ソニー盛田昭夫」伝である。前半は、ソニーのサクセスストーリーだ。グレートコミュニケーターといわれた彼のエピソードが、微に入り細をうがって詳しく描写されている。興味深いのは後半だ。1980年代前半までの絶頂期を経て次第に衰退していく姿が、知られざるエピソードを交えて記されているのだ。
したがって、創業者の盛田昭夫を通して、凋落に至る経過の深読みが可能だ。著者は、ソニーの経営中枢部の深い森に分け入り、ソニーの失敗の背景にリーダーの側面から肉薄している。
ソニーは89年、ハリウッドのコロンビア・ピクチャーズを34億ドルで買収する。著者はそこから「微妙にタガが緩みはじめた」と捉える。
一度は経営会議で買収を断念しながら、翌日には盛田の意をくんで一転。盛田は取締役会を前に「映画会社ひとつ経営できなくて、それでもソニーなのか。それじゃ、普通の日本の会社と同じじゃないか」と幹部を一喝し、ソニーは買収に突き進んだという。
「映画は水物だから、手を出すな」と言明していた盛田が、なぜ変心したのか。日本がバブルの絶頂期であったことと無関係ではないだろう。 そもそも、ハードメーカーによる映画会社のマネジメントには、限界があると私は思う。 その後、後継者選びの失敗やイノベーションの不発が重なり、知識、創造性、情熱を資本とする「創業の精神」を喪失し、経営がダッチロール化することになる。 ソニーは、いま、ようやく業績が上向き始めた。再生に要した年月の長さを考えれば、本書の読後感は重い。