コラム

八代 嘉美『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』(平凡社)、吉村 仁『17年と13年だけ大発生? 素数ゼミの秘密に迫る!』(ソフトバンククリエイティブ) 、正木 晃『裸形のチベット チベットの宗教・政治・外交の歴史』(サンガ) ほか

  • 2024/03/29

毎月150冊出る新書からハズレを引かないための 今月読む新書ガイド
(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2008年)

■01『iPS細胞 世紀の発見が医療を変える』八代嘉美・著/平凡社新書/693円(税込)

■02『17年と13年だけ大発生? 素数ゼミの秘密に迫る!』吉村仁・著/サイエンス・アイ新書/1,000円(税込)

■03『裸形のチベット チベットの宗教・政治・外交の歴史』正木晃・著/サンガ新書/893円(税込)

■04『変わる中国 変わるメディア』渡辺浩平・著/講談社現代新書/756円(税込)

■05『コーカサス 国際関係の十字路』廣瀬陽子・著/集英社新書/735円(税込)

■06『煩悩の文法 体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話』定延利之・著/ちくま新書/714円(税込)

■07『世紀のラブレター』梯久美子・著/新潮新書/714円(税込)

■08『ネットいじめ ウェブ社会と終わりなき「キャラ戦争」』荻上チキ・著/PHP新書/777円(税込)

■09『ポリティカル・セックスアピール 米大統領とハリウッド』井上篤夫・著/新潮新書/714円(税込)

■10『医療格差の時代』米山公啓・著/ちくま新書/714円(税込)

今回(7月発売分)の新刊は143冊。スクリーン新書(近代映画社)が4点を携え創刊しました。全体に質の低下が激しいです。①iPS細胞とはあらゆる細胞に分化できる細胞のこと。身体から採取した細胞にある遺伝子を入れることで人工的につくられます。iPS細胞の登場により、なくした手足や臓器などを自前の細胞からつくる再生医療はもちろん、クローンや不老不死などまでが実現可能性を持つこととなりました。ES細胞との違い、開発までの道のり、特許合戦に倫理問題など、この画期的発明をめぐる全貌を、東大大学院博士課程で研究する著者がひもときます。

増補 iPS細胞 世紀の発見が医療を変える / 八代 嘉美
増補 iPS細胞 世紀の発見が医療を変える
  • 著者:八代 嘉美
  • 出版社:平凡社
  • 装丁:新書(272ページ)
  • 発売日:2011-09-12
  • ISBN-10:4582856071
  • ISBN-13:978-4582856071
内容紹介:
臨床応用に向けて、研究はどこまで進んだのか?"オールジャパン"の体制は十全か?iPS細胞の今がわかる。

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②アメリカに13年周期と17年周期で大発生する不思議なセミがいます。周期が素数であることから著者はこのセミたちを「素数ゼミ」と名づけ、その謎を解明していきます。前作『素数ゼミの謎』(文藝春秋)は親子で楽しめる絵本っぼいつくりでベストセラーになりましたが、本作はグッと本格的。科学的に考えることの醍醐味を実感できる希有な一冊です。

17年と13年だけ大発生?素数ゼミの秘密に迫る! / 吉村 仁
17年と13年だけ大発生?素数ゼミの秘密に迫る!
  • 著者:吉村 仁
  • 出版社:ソフトバンククリエイティブ
  • 装丁:新書(228ページ)
  • 発売日:2008-07-16
  • ISBN-10:4797342587
  • ISBN-13:978-4797342581
内容紹介:
北アメリカで、17年や13年のサイクルで大発生する周期ゼミ。この周期ゼミの謎を解き明かし、生物界を"あっ"といわせた著者が、仮説やモデルを使った検証をもとに、周期ゼミ(素数ゼミ… もっと読む
北アメリカで、17年や13年のサイクルで大発生する周期ゼミ。この周期ゼミの謎を解き明かし、生物界を"あっ"といわせた著者が、仮説やモデルを使った検証をもとに、周期ゼミ(素数ゼミ)の全貌を解き明かす本書は、生物進化についても衝撃的な展開が盛りだくさん。「生き残るための条件とは?」「メイトチョイスとは?」など、生物好きを夢中にさせること間違いなし。

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③チベット関係の書籍が相次いでいますが、ほとんどが侵略問題がらみ。この本はその点ひと味違い、宗教・政治・外交が複雑奇妙に絡みあったチベットの歴史を正攻法でつづったものです。安価なチベットの歴史書はほかになく、参考文献も充実しているので、手元に置いて損はありません。サンガ新書は仏教関連に特化したレーベル。

裸形のチベット―チベットの宗教・政治・外交の歴史 / 正木 晃
裸形のチベット―チベットの宗教・政治・外交の歴史
  • 著者:正木 晃
  • 出版社:サンガ
  • 装丁:新書(279ページ)
  • ISBN-10:4901679821
  • ISBN-13:978-4901679824
内容紹介:
チベットを語るとき、その宗教-大乗仏教の最高の叡智を実現したいわば楽土としてみているのではないか。だが現実の歴史は、われわれの想像をはるかに超えたものだ。チベットの始まりから、ダラ… もっと読む
チベットを語るとき、その宗教-大乗仏教の最高の叡智を実現したいわば楽土としてみているのではないか。だが現実の歴史は、われわれの想像をはるかに超えたものだ。チベットの始まりから、ダライ・ラマ一四世の国外亡命まで-楽土と現実政治の混淆が織り成す歴史のカオスを、長年、チベットと深く関係してきた宗教学者である著者が余すことなく描き出す。ここにあるのは、まぎれもないチベットの裸の姿である。

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④いまやすっかりヤバいだけの国になってしまった中国。一方で、かの国の現代文化にかんする情報は驚くほど入ってきていません。共産主義のまま市場経済を導入した中国のメディアはいまどうなっているのか。「党と政府の喉と舌」と形容され完全な統制下にあったメディアが、広告資本やインターネットにより変貌していくようすはスリリングです。

変わる中国 変わるメディア / 渡辺 浩平
変わる中国 変わるメディア
  • 著者:渡辺 浩平
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(240ページ)
  • 発売日:2008-07-18
  • ISBN-10:4062879514
  • ISBN-13:978-4062879514
内容紹介:
中国社会に起きている静かな革命の真相。プチブル向け新聞、衛星テレビ、ITメディア。13億人は何を見て、どう感じているのか。新聞・雑誌・テレビ・広告・ウェブ-新しい世代によるムーブメントと、いまも続く党のメディア規制の実態を描く。

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⑤前著『強権と不安の超大国・ロシア』(光文社新書)に続き、地勢的、民族的に微妙な国際バランスに置かれているコーカサス地域の問題をわかりやすく解説した好著。日本にはなじみの薄いコーカサスだけに貴重な一冊でしょう。

コーカサス国際関係の十字路 / 廣瀬 陽子
コーカサス国際関係の十字路
  • 著者:廣瀬 陽子
  • 出版社:集英社
  • 装丁:新書(224ページ)
  • 発売日:2008-07-17
  • ISBN-10:4087204529
  • ISBN-13:978-4087204520
内容紹介:
コーカサスは、ヨーロッパとアジアの分岐点であり、古代から宗教や文明の十字路に位置し、地政学的な位置や、カスピ海の石油、天然ガスなどの天然資源の存在により、利権やパイプライン建設な… もっと読む
コーカサスは、ヨーロッパとアジアの分岐点であり、古代から宗教や文明の十字路に位置し、地政学的な位置や、カスピ海の石油、天然ガスなどの天然資源の存在により、利権やパイプライン建設などをめぐって大国の侵略にさらされてきた。またソ連解体や、9・11という出来事により、この地域の重要性はますます高まりつつある。だが、日本では、チェチェン紛争などを除いて認知度が低いのが現実である。本書では、今注目を集めるこの地域を、主に国際問題に注目しつつ概観する。

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⑥著者の専門は言語学およびコミュニケーション。モノの場所を示す「で」、条件を示す「たら」についてなど著者の最新の研究成果をわかりやすく説いた一冊。なのですが、なんかヘンな先生です。南沙織「17才」の歌詞を引き、「ああ、早くつかまえて。ああ好き好き。ああ私はいま生きている」。これが「体験は状態をデキゴト化する」であると説明したり。

煩悩の文法―体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話 / 定延 利之
煩悩の文法―体験を語りたがる人びとの欲望が日本語の文法システムをゆさぶる話
  • 著者:定延 利之
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:新書(200ページ)
  • ISBN-10:4480064389
  • ISBN-13:978-4480064387
内容紹介:
「文法的に問題だ」というのは、なにが問題なのだろうか。私たちは日常それほど理知的にことばを扱っているわけではない。立派そうな文法が、私たちの合理的でないおしゃべりから出来上がって… もっと読む
「文法的に問題だ」というのは、なにが問題なのだろうか。私たちは日常それほど理知的にことばを扱っているわけではない。立派そうな文法が、私たちの合理的でないおしゃべりから出来上がっていることは案外多い。本書では、そんな例として「体験の文法」を取り上げる。人は誰しも、体験を語りたがるという煩悩を抱えている。体験の文法は、ときに知識の文法をやすやすと超える。体験が「状態」をあざやかに「デキゴト」化する不思議なデキゴトを体験してください。

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⑦明治から現代の、スター、政治家、文学者などのラブレターを編んだ一冊。見てはいけないものを見た気にさせる手紙、さすがと膝を打つ手紙。有名人ならではの表の顔とのギャップも楽しいですが、白眉はラストを飾る、老齢を迎えた映画評論家・大橋恭彦が妻・沢村貞子に宛てた最後のラブレター。世紀の名(恋)文です。

世紀のラブレター / 梯 久美子
世紀のラブレター
  • 著者:梯 久美子
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:新書(206ページ)
  • 発売日:2008-07-01
  • ISBN-10:4106102722
  • ISBN-13:978-4106102721
内容紹介:
甘える裕次郎、渇望する鳩山一郎、死を目前に想いを託した特攻兵や名将たち。平民宰相は妻の不貞をかこち、関東軍参謀はその名を連呼した。「なぜこんなにいい女体なのですか」と迫る茂吉、「… もっと読む
甘える裕次郎、渇望する鳩山一郎、死を目前に想いを託した特攻兵や名将たち。平民宰相は妻の不貞をかこち、関東軍参謀はその名を連呼した。「なぜこんなにいい女体なのですか」と迫る茂吉、「覚悟していらっしゃいまし」と凄んだ美貌の歌人。ゆかしき皇族の相聞歌から、来世の邂逅を願う伴侶の悲哀まで-明治から平成の百年、近現代史を彩った男女の類まれな、あられもない恋文の力をたどる異色ノンフィクション。

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⑧少し前から問題化している「学校裏サイト」。扱った本はすでにいくつか出ていますが、本書は、そうした先行書籍を含め、マスコミの誤謬まで問題として包括し、フィルタリングという安易な解決策に疑問を突きつけます。ネットがいじめを誘発しているのではなく、いじめがネットにより可視化されているのだ、と。

ネットいじめ / 荻上 チキ
ネットいじめ
  • 著者:荻上 チキ
  • 出版社:PHP研究所
  • 装丁:新書(256ページ)
  • 発売日:2008-07-16
  • ISBN-10:4569701140
  • ISBN-13:978-4569701141
内容紹介:
インターネットはいじめの温床、匿名ゆえに陰湿な誹謗中傷の嵐。「子どもたちを守れ!」を合言葉に、ネットやケータイの使用規制が叫ばれる。はたしてこれで、いじめは減るのか?「学校裏サイト… もっと読む
インターネットはいじめの温床、匿名ゆえに陰湿な誹謗中傷の嵐。「子どもたちを守れ!」を合言葉に、ネットやケータイの使用規制が叫ばれる。はたしてこれで、いじめは減るのか?「学校裏サイト」を利用する子どもたちの生の声を分析すると、ネット空間は現実の人間関係の延長にあり、要は使う人間の質と環境が問題だとわかる。そしてそこには、空気を読まなければ叩かれる現代の若者事情が見え隠れする。学校でも、職場でも簡単に見えるようになった"陰口"。この息苦しさの正体が明らかになる。

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⑨ケネディとニクソンが大統領の座を争ったとき、初のテレビ・ディベートで、テレビ映えしたケネディが好感を集め勝利したというエピソードはよく知られるところ。以降の大統領選の歴史はハリウッドと二人三脚で刻まれてきました。本書の隠れた主役はハリウッドの大物プロデューサー、デヴィッド・ゲフィン。オバマもまたゲフィンの「作品」です。

ポリティカル・セックスアピール―米大統領とハリウッド / 井上 篤夫
ポリティカル・セックスアピール―米大統領とハリウッド
  • 著者:井上 篤夫
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:新書(191ページ)
  • ISBN-10:4106102749
  • ISBN-13:978-4106102745
内容紹介:
トム・クルーズを大スターに仕立てジョン・レノンに復活を遂げさせたハリウッドの大物は、ビル・クリントンを大統領にした陰の立役者でもあった-。米大統領選の裏側で、もはや映画製作者たちは… もっと読む
トム・クルーズを大スターに仕立てジョン・レノンに復活を遂げさせたハリウッドの大物は、ビル・クリントンを大統領にした陰の立役者でもあった-。米大統領選の裏側で、もはや映画製作者たちは欠かせぬ存在だ。どの陣営も有能なスタッフを抱え込みイメージ戦略を練っている。ちょうど映画スターを売り出すように。ルーズベルトからオバマまで、ハリウッドとワシントンがいかに結びついてきたかを検証する。

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⑩07年12月号で取り上げた、本田宏『誰が日本の医療を殺すのか』(洋泉社)と同テーマですが、現場にちかい視線からより具体的に医療の崩壊が告発されています。フリーターの医師が増えているなど驚くべき実態も。

医療格差の時代 / 米山 公啓
医療格差の時代
  • 著者:米山 公啓
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:新書(197ページ)
  • ISBN-10:4480064370
  • ISBN-13:978-4480064370
内容紹介:
医療行政の迷走により、日本の医療が歪みはじめている。診察費が支払えない弱者、介護施設から追い出される高齢者、過剰労働でダウン寸前の勤務医たち。もはや現今の日本では平等医療が崩壊した。悲鳴をあげる現場の実態をレポートし、医者側と患者側の双方に生じている課題を克明に語る。

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Invitation(終刊)

Invitation(終刊) 2008年10月号

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