後書き

『アイドル・コード: 託されるイメージを問う』(青土社)

  • 2023/12/12
アイドル・コード: 託されるイメージを問う / 上岡磨奈
アイドル・コード: 託されるイメージを問う
  • 著者:上岡磨奈
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(214ページ)
  • 発売日:2023-11-21
  • ISBN-10:4791776003
  • ISBN-13:978-4791776009
内容紹介:
アイドルに絡まるさまざまなコードをていねいに解きほぐし、その文化を見つめ直す。すべての人に送る、現代アイドル文化の必携書。
「アイドル」を取り巻く状況がめまぐるしく変化する現在において、わたしたちはいかに「アイドル」について考えていけば良いのでしょうか。かれらに絡まるさまざまな文脈をていねいに解きほぐしながらその現在地をまなざし、考える、上岡磨奈さんの『アイドル・コード——託されるイメージを問う』が刊行されました。刊行を記念して本書「あとがき」の一部を公開いたします。

「アイドル」が纏うものとは

アニメ「アイドル伝説えり子」の中のワンシーン、鉢巻をつけた大勢のファンに名前を呼ば れてえり子がステージに立つ、そんなシーンが、また音楽番組でたっぷりのフリルに包まれた 衣装で恥ずかしそうに自己紹介するWinkの姿が、私にとってのアイドルの原風景です。「えり子」を見てアイドルに憧れた私は、画用紙にえり子やWinkのようなキラキラの衣装を着て マイクを持った自分を描き、これを持って「パオパオチャンネル」の視聴者出演コーナーに出 るんだ!と意気込んでいました。また光 GENJI を見て、カチューシャをおでこにつけて ローラースケート風に走って転び、怪我をしたことも思い出します。私と同世代の読者はこの 思い出に苦笑いしたり、懐かしさを感じたりするかもしれませんが、特に若い世代の読者にとってはきっとあまりピンとこない、何もおもしろくない話だと思います(「パオパオチャンネル」はYouTuberではなく、テレビ番組です)。

アイドルと自分の思い出は、世代によって異なり、また関心や生育環境が違えば、年齢は同じでも、全く共感できないということも起こると思います。そんなことは百も承知のはずなのに、なぜか「アイドル」という言葉でみんなで同じ話をしている気になってしまう、それをつなぐものはなんだろうかという疑問は、本書の出発点の一つです。

本書の中で「あまり目が向けてこられなかった」、「これまで重要視されていなかった」というような文言をくり返しましたが、これらはある意味ではその通りであり、またある意味では正確ではありません。本文で紹介した通り、ここで論点としたほとんどのことに既に目を向けている論者やパフォーマー、クリエイターは数多いて、そうしたテキストや実践に刺激を受けて、私自身の視点も少しずつ変わっていきました。しかし、同時に、いずれの論点もまだまだ十分には語られていませんし、議論の場も、葛藤の場も成熟し切ってはおらず、〝アイドル・ コード〞は温存されていて、私の幼少期と大きくは変わらないと思います。しかし、こうした語り、思案する場を作り続けていくことは、変化の兆しを期待する途になっていくだろうと思います。

この本が誕生するもう一つのきっかけは、とある学会で行なった発表「ジェンダー規範に対峙するアイドル音楽の実践―「二丁目の魁カミングアウト」を事例に」でした。前身である二丁ハロ時代から彼らの活動やパフォーマンスを知ってはいたものの、ふとアイドルを取り巻 くジェンダーやセクシュアリティの問題と深く関わる事例として学術的に検討できるのでは、 と改めて「二丁魁」(二丁目の魁カミングアウトの略称)を対象とした研究へと繋がったのは、 アイドルという芸能ジャンルについて研究関心を向ける仲間たちとの議論の場が続いていたからこそ、と思います。この発表を聞いた、とある編集者との出会いによって、書籍という形式でより議論を深め、広げるという企画が立ち上がりました。残念ながらその企画自体は実現し なかったのですが、結果的にそれを土台として本書の執筆を進めることができました。

「二丁魁」の話をすると、新しい奇を衒ったタイプのアイドルグループ?と聞き返される ことも多いのですが、実際には一〇年を超えるキャリアのあるアイドルです。この世の中の知らないことは、その人にとっては存在しないことと同じで、聞いたことがなければそもそもあ るということには考えも及ばない、ということもあります。だからこそ、もうすでにあるものだから自分が取り上げなくても、と思わず、話題にし続けていくことに意義はあるだろうと思います。多くの先行する議論や事例があり、参照しきれていないほどですし、まとまっていないかもしれませんが、日々の思案の記録として、二〇二三年の今に書き残しておきます。



[書き手]上岡磨奈(かみおか・まな)
1982年生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。専攻は文化社会学、カルチュラルスタディーズ。俳優、アイドル、作詞家などを経て、アイドルとアイドルファンを対象とした研究を開始。現在はアイドルの生活や仕事、キャリアを対象とした調査、研究を行っている。共著に『アイドルについて葛藤しながら考えてみた――ジェンダー/パーソナリティ/推し』(青弓社)、『アイドル・スタディーズ――研究のための視点、問い、方法』(明石書店)、『消費と労働の文化社会学――やりがい搾取以降の「批判」を考える』など。
アイドル・コード: 託されるイメージを問う / 上岡磨奈
アイドル・コード: 託されるイメージを問う
  • 著者:上岡磨奈
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(214ページ)
  • 発売日:2023-11-21
  • ISBN-10:4791776003
  • ISBN-13:978-4791776009
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アイドルに絡まるさまざまなコードをていねいに解きほぐし、その文化を見つめ直す。すべての人に送る、現代アイドル文化の必携書。

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