書評

『三陸の海』(講談社)

  • 2026/10/01
三陸の海 / 津村 節子
三陸の海
  • 著者:津村 節子
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(169ページ)
  • 発売日:2015-10-15
  • ISBN-10:4062932245
  • ISBN-13:978-4062932240
内容紹介:
夫・吉村昭がこよなく愛した三陸海岸が大津波に襲われた。四十年以上も前に体験者の証言をもとに、繰り返しこの地を襲う津波について警鐘を鳴らす『海の壁 三陸沿岸大津波』を著した夫は、この度の大震災を知ることなく逝った。深い縁で結ばれた大切な人々を訪ねる旅は、夫婦の軌跡をたどる旅でもあった。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

夫が愛した土地に思い重ね

吉村昭の『三陸海岸大津波』は、一昨年の東日本大震災以後、大きな評判を呼び、増刷された。そのとき、吉村はすでに鬼籍に入っていた。妻の津村節子は、大震災のとき、長崎にいた。文章はそこから始まる。夫の吉村昭が愛した2つの土地。長崎と岩手の田野畑。著者は、田野畑のある三陸海岸に思いを馳(は)せる。

小説を書くことだけを考え、勤めをやめた吉村。やがて田野畑を気に入って、村長の勧めるままに、半島や牛を買った。津村の筆致には、やわらかいユーモアさえ漂っている。

本書後半は、津村が子どもや孫と、田野畑を訪れる記述が中心だ。ここでも文章には強い主張があるわけではない。夫とのやりとりを回想しつつ、そこに、目の前の風景の美しさと、数十年に一度、牙を剥(む)く残酷さを重ね合わせる。

断崖の階段を下りていくシーンがある。足に自信のある著者はどんどん歩く。吉村との会話が蘇(よみがえ)る。

「せっかく一緒に歩くんだから、もう少しゆっくり歩けないのか。おまえの先祖は飛脚か」

ユーモアが光る。

夫が愛した土地を歩く妻。それを超えた何かがこの本にはある。
三陸の海 / 津村 節子
三陸の海
  • 著者:津村 節子
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(169ページ)
  • 発売日:2015-10-15
  • ISBN-10:4062932245
  • ISBN-13:978-4062932240
内容紹介:
夫・吉村昭がこよなく愛した三陸海岸が大津波に襲われた。四十年以上も前に体験者の証言をもとに、繰り返しこの地を襲う津波について警鐘を鳴らす『海の壁 三陸沿岸大津波』を著した夫は、この度の大震災を知ることなく逝った。深い縁で結ばれた大切な人々を訪ねる旅は、夫婦の軌跡をたどる旅でもあった。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2013年12月18日

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