書評

『夫婦の散歩道』(河出書房新社)

  • 2017/07/01
夫婦の散歩道 / 津村 節子
夫婦の散歩道
  • 著者:津村 節子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(202ページ)
  • 発売日:2012-12-11
  • ISBN-10:4309021492
  • ISBN-13:978-4309021492
内容紹介:
吉村昭と歩んだ五十余年の歳月、思い出の旅路、懐かしき人々…。人生の哀歓をたおやかに描き出す感動のエッセイ集。吉村司「母のウィンク」収録。

胸に染みこむ淡々とした語り口

著者にはすでに、夫君吉村昭の凄絶(せいぜつ)な闘病生活と、それを支えた家族の痛切な記録、『紅梅』がある。これは、小説の形で書かれた作品だが、本書はエッセイのせいか、筆の運びはだいぶ落ち着いている。9割以上が、吉村昭の死(2006年)以降に書かれたものである。

文学に志した青春期に始まり、夫の死を含む近年までの思い出が、あくまで感情を抑えた筆致で、さりげなく綴(つづ)られていく。随所に、吉村の影が立ち現れるのが、まことになつかしく、そして切ない。妻として夫として、さらに作家同士としての共同生活は、かくも厳しく、かくも温かいものであったのか。それをあらためて、思い知らされる。淡々とした語り口だけに、かえって深く胸に染み込む。

評者はこの世代の作家に、今の作家を超える熱気、志の高さのようなものを、強く感じる。夫君のエッセイ、『東京の下町』『私の文学漂流』などを併読することで、より興趣がわくことを請け合う。
夫婦の散歩道 / 津村 節子
夫婦の散歩道
  • 著者:津村 節子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(202ページ)
  • 発売日:2012-12-11
  • ISBN-10:4309021492
  • ISBN-13:978-4309021492
内容紹介:
吉村昭と歩んだ五十余年の歳月、思い出の旅路、懐かしき人々…。人生の哀歓をたおやかに描き出す感動のエッセイ集。吉村司「母のウィンク」収録。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2013年2月17日

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