書評

『検事の本懐』(宝島社)

  • 2020/07/04
検事の本懐 / 柚月 裕子
検事の本懐
  • 著者:柚月 裕子
  • 出版社:宝島社
  • 装丁:単行本(376ページ)
  • 発売日:2011-11-10
  • ISBN-10:4796686827
  • ISBN-13:978-4796686822
内容紹介:
県警上層部に渦巻く男の嫉妬が、連続放火事件に隠された真相を歪める(『樹を見る』)。出所したばかりの累犯者が起した窃盗事件の、裏に隠された真実を抉る(『罪を押す』)。同級生を襲った現役警官による卑劣な恐喝事件に、真っ向から対峙する(『恩を返す』)。東京地検特捜部を舞台に"検察の正義"と"己の信義"の狭間でもがく(『拳を握る』)。横領弁護士の汚名をきてまで、恩義を守り抜いて死んだ男の真情を描く(『本懐を知る』)。骨太の人間ドラマと巧緻なミステリー的興趣が、見事に融合した極上の連作集。

検察官の本来あるべき姿を活写

昨今、相次ぐ不祥事の発覚から、検察の世界を舞台にした小説、ルポが増えてきた。従来、絶対的正義の実現を標榜し、ある意味で聖域化していたこの組織に、ほころびが出始めたせいだろう(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2012年)。

本書も、当然その流れを意識したはずだが、露骨な検察批判が展開されるわけではない。むしろ、検察官はこうあるべきだという、前向きの姿勢に貫かれている。著者は、まだキャリアの浅い女性作家だが、こうした意欲的なテーマに取り組む姿勢は、評価されてよい。

北国の架空都市、米崎市の地検に勤務する若手検事、佐方貞人が主人公を兼ねて、狂言回しを務める。物語はおおむね、佐方以外の人物の視点で語られ、そこから佐方の人物像を浮き彫りにする、という手法がとられている。例外は、苦境に陥った幼なじみの元恋人に頼まれ、トラブル解決に佐方自身が乗り出す第3話「恩を返す」一作のみ。ここでは、元恋人のほか彼女を恐喝する悪徳刑事、そして佐方の視点が交互に出てきて、サスペンスを盛り上げる。弁護士だった、佐方の亡父の事件にも触れられており、第5話の伏線になっている。

第1話「樹を見る」、第2話「罪を押す」、第4話「拳を握る」はいずれも、証拠から明らかに有罪と思える事件を扱う。場合によっては、被疑者が自白までした事件に、佐方が疑問を呈して再捜査に乗り出すという構成をとる。警察捜査が、ややずさんすぎるきらいもあるが、佐方のねばり強さがよく出ていて、最後まであきさせない。

第5話「本懐を知る」は、第3話で触れられた佐方の亡父の、過去の謎めいた事件を取り上げる。ルポライター兼先の視点で、その秘密がしだいに明らかにされる展開に、読みごたえがある。

作品を重ねるごとに、佐方のキャラクターが明確になるように、期待したい。
検事の本懐 / 柚月 裕子
検事の本懐
  • 著者:柚月 裕子
  • 出版社:宝島社
  • 装丁:単行本(376ページ)
  • 発売日:2011-11-10
  • ISBN-10:4796686827
  • ISBN-13:978-4796686822
内容紹介:
県警上層部に渦巻く男の嫉妬が、連続放火事件に隠された真相を歪める(『樹を見る』)。出所したばかりの累犯者が起した窃盗事件の、裏に隠された真実を抉る(『罪を押す』)。同級生を襲った現役警官による卑劣な恐喝事件に、真っ向から対峙する(『恩を返す』)。東京地検特捜部を舞台に"検察の正義"と"己の信義"の狭間でもがく(『拳を握る』)。横領弁護士の汚名をきてまで、恩義を守り抜いて死んだ男の真情を描く(『本懐を知る』)。骨太の人間ドラマと巧緻なミステリー的興趣が、見事に融合した極上の連作集。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2012年2月26日

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