書評
『日本近代文学との戦い―後藤明生遺稿集』(柳原出版)
晩年の小説家切実さ胸打つ
後藤明生が亡くなってから五年。ゴーゴリなどのロシア文学に裏打ちされた確かな文学観と、独特のユーモアは多くのファンを持っていた。私はあまりよい読者ではなかった。折に触れて読む程度だった。だが、この本に収められている最晩年の小説、とりわけタイトルにもなっている短編集には、完全に打ちのめされた。後藤は、二葉亭四迷が書かなくなったことの謎に迫ろうとして、二葉亭と戦う。大学の講義でも戦う。ペットボトルを口飲みし、後ろを向いて私語する学生と戦う。回想の中で蝉と戦い、病気と戦った。
後藤は自分の日常を生きながら、複数の戦いをずっと続けていた。幻想的な部分も、学問研究的な部分もある。だが、すべてが小説になっている。
一読、小説のように見えないかもしれない。エッセイではないか、研究ではないか、と訝(いぶか)しく思うかもしれない。だが、後藤明生という作家にとって、小説はこの形でしかあり得なかった。その切実さが胸に響く。もう少し、できればあと数篇、後藤の短編を読みたかった。遅まきながら、彼の不在が現代文学に深刻な影響を与えていることに思い到った。
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