書評
『宗教が往く』(マガジンハウス)
「私」語り突き放す実験小説
自伝的要素いっぱいの長編小説。人気の劇作家が怒涛の実人生をフィクションの形で語っている。ただ、どこまでも、そしてあくまでもフィクションとして語ることに著者はこだわる。小説の語り手がどうして著者と等身大の「私」でなければならないか。そんなの嘘じゃん。松尾スズキは「私」が語る小説をとことん突き放す。フクスケという主人公はこうして生まれ、ハチャメチャな生活の中から劇団を立ち上げ、出鱈目な大団円へ向かって突き進む。実在の、それとわかる登場人物もさることながら、松尾スズキの造形する奇妙な登場人物たちが魅力的。それから小説にしか出来ないことが随所に仕掛けられていて、一種の実験小説になっていて、驚かされる。
彼の劇団「大人計画」の芝居を直接観たことのない人でも、じゅうぶん楽しめる。それくらい小説のクオリティが高いのだ。それに、いま流行の「私」語りの小説にうんざりしている人にも、是非、お勧めしたい。それにしても職業作家たちはどうしてかくも自分のことばかり書くようになってしまったのか。そうした風潮を笑い飛ばす快作。
【文庫版】
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