書評

『ぼくの美術帖』(みすず書房)

  • 2018/01/31
ぼくの美術帖  / 原田 治
ぼくの美術帖
  • 著者:原田 治
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(230ページ)
  • 発売日:2006-04-04
  • ISBN:4622080656
内容紹介:
ルネサンスのティツィアーノに20世紀のデュフィ。画品薫る挿絵画家たち-小村雪岱、木村荘八、宮田重雄。鏑木清方のわけても挿絵的な小品を愛し、鈴木信太郎の絵に生命力の発露をみる。と思えば、1950年代アメリカのカートゥニストたち、北園克衛のグラフィックデザイン、そして抽象画家・川端実…作家… もっと読む
ルネサンスのティツィアーノに20世紀のデュフィ。画品薫る挿絵画家たち-小村雪岱、木村荘八、宮田重雄。鏑木清方のわけても挿絵的な小品を愛し、鈴木信太郎の絵に生命力の発露をみる。と思えば、1950年代アメリカのカートゥニストたち、北園克衛のグラフィックデザイン、そして抽象画家・川端実…作家・作品の多様さからもわかるとおり、美術史家による「絵画の見方」指南とはまったく異なる新鮮なまなざしがアートを巡る旅へと誘う。さらに、縄文土器から戦国時代の兜、豊国、国貞ら浮世絵師たち、宗達、鉄斎、劉生と縦横に渉り、日本民族の縄文的美意識の系譜を探る「OSAMU版・日本美術史」。アートへの愛が溢れる美術エッセイ。
出版不況と言われる中で、今年の春、うれしいことがあった。(事務局注:本書評執筆は2006年)

一九八二年(何ともう四半世紀近く前だ)にPARCO出版から出版された『ぼくの美術帖(ちょう)』が、みすず書房から新装で復活出版されたのだ。こんな時代でも、良書はちゃんと蘇(よみがえ)るものなのだった。

著者はイラストレーターの原田治さん。と言ったら、ある世代の女の人たちは「エッ、あのOSAMU GOODSの?」と驚くだろう。70年代末から80年代に少女だった人で、OSAMU GOODSを知らない人は、まずめったにいない。今の「かわいい」文化だって、ほんとうは原田さん抜きには語れないのだ。

原田さんにはOSAMU GOODSタイプの絵ばかりではなく、いくつかの異なった画風があり、サラリと洒脱(しゃだつ)な人物画やモダンアート的な抽象画なども私は好きだった。

そんな大人気イラストレーターとして活躍するいっぽう、自分の美意識のみなもとをじっくりと探って行く『ぼくの美術帖』を書きあげていたのだ。

当時読んで、私はビックリ。こんなにわくわくさせる美術評論の本は珍しいんじゃないかと思った。タイトル通り「ぼく」の「美術帖」なのがいい。徹底して原田治個人の好みに偏執して語られているのがいい。

ティツィアーノや俵屋宗達が出て来るかと思えば、木村荘八や鏑木清方が、そして宮田重雄や鈴木信太郎が出て来る。北園克衛のグラフィック・デザインやアーニー・ブッシュミラー(アメリカのコミック『ナンシー』の作者)まで、同様の愛着で語られている。

ジャンル分けは関係ないのだ。私はこの本で小村雪岱(せったい)を、川端実を、戦国時代の兜(かぶと)の美を知った。

ごく個人的な好みに偏執した結果、逆に個人を超えて、もっと広く大きな世界にたどりついているという感触もあった。古今東西の美術を貫く、いくつかの美意識の流れがつかめたような気がした。特に「美意識の源流」と題された縄文文化論。新しいみすず書房版で再読して、また唸(うな)った。

(事務局注:続編にあたる『ぼくの美術ノート』(亜紀書房)も発売中)

【この書評が収録されている書籍】
アメーバのように。私の本棚  / 中野 翠
アメーバのように。私の本棚
  • 著者:中野 翠
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:文庫(525ページ)
  • 発売日:2010-03-12
  • ISBN:4480426906
内容紹介:
世の中どう変わろうと、読み継がれていって欲しい本を熱く紹介。ここ20年間に書いた書評から選んだ「ベスト・オブ・中野書評」。文庫オリジナルの偏愛中野文学館。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

ぼくの美術帖  / 原田 治
ぼくの美術帖
  • 著者:原田 治
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(230ページ)
  • 発売日:2006-04-04
  • ISBN:4622080656
内容紹介:
ルネサンスのティツィアーノに20世紀のデュフィ。画品薫る挿絵画家たち-小村雪岱、木村荘八、宮田重雄。鏑木清方のわけても挿絵的な小品を愛し、鈴木信太郎の絵に生命力の発露をみる。と思えば、1950年代アメリカのカートゥニストたち、北園克衛のグラフィックデザイン、そして抽象画家・川端実…作家… もっと読む
ルネサンスのティツィアーノに20世紀のデュフィ。画品薫る挿絵画家たち-小村雪岱、木村荘八、宮田重雄。鏑木清方のわけても挿絵的な小品を愛し、鈴木信太郎の絵に生命力の発露をみる。と思えば、1950年代アメリカのカートゥニストたち、北園克衛のグラフィックデザイン、そして抽象画家・川端実…作家・作品の多様さからもわかるとおり、美術史家による「絵画の見方」指南とはまったく異なる新鮮なまなざしがアートを巡る旅へと誘う。さらに、縄文土器から戦国時代の兜、豊国、国貞ら浮世絵師たち、宗達、鉄斎、劉生と縦横に渉り、日本民族の縄文的美意識の系譜を探る「OSAMU版・日本美術史」。アートへの愛が溢れる美術エッセイ。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2006年11月5日

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