書評
『九年目の魔法』(東京創元社)
十二歳の少年が「南の島に行く」という書き置きを残して、アンパンとジャムパンを積んだ小舟で海へと漕ぎ出していった――。地方新聞でその記事を目にした時、当時十九歳だったわたしは、大学生なんかやってる自分にひどく幻滅したものだった。南の島に憧れる一心で大海に小舟で乗り出していける。多分、十二歳という年齢はそんな冒険ができるデッドラインなのだ。その後のわたしたちといえば十二歳の自分から遠ざかるばかり。何かの拍子に子供時代に呼び戻されない限りは。そう、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ『九年目の魔法』の主人公ポーリィのように。
大学の休暇で家に戻ったポーリィは、自分の記憶が奇妙な二重性を帯びていることに気づいて愕然とする。懐かしいはずの写真の印象が微妙に記憶とずれていたり、愛読していた本の内容が違っていたり。友達やボーイフレンドのこと、家族のエピソード、何もかも本当にあったことのはずなのに、どこか違和感を覚えてしまうのはなぜ? たしかに起こったはずの出来事と対応しない、別の記憶が浮かんでくるのはなぜ? ポーリィは真実を求めるために、子供時代の出来事を順番にたどりはじめる。
この回想の少女時代が素晴らしい。不思議な出来事が不思議なままに信じられ、英雄の物語に胸躍らせて、ごっこ遊びに夢中になったあの頃! 恋なんかより楽しいことが山ほどあって、だから、やたらと男の子の目を気にするハイティーンのお姉さん世代を見るにつけ〈あーあ! とポーリィは思った。どうして女の子なんかみんな、十五になったら法律でどこかに閉じこめてしまわないんだろう? やることったらばかばかりなのに!〉なんて憤慨したりして。ポーリィの一挙一動、一喜一憂に、あの頃の自分の姿が重なり、歓びに満たされること必定だ。
さて、本物の記憶を取り戻したポーリィはというと――。一番大切な人を救うため再び魔法の力を信じ、自分に偽の記憶を植えつけた邪悪な存在に一人立ち向かっていくのだ。その凛々(りり)しさといったら! 全ての婦女子かくあるべし。読み始めたら止まらない、読み終わっても離れられない。自分の中のちっちゃな女の子を蘇らせてくれる傑作ファンタジーなのだ。
【新装版】
【この書評が収録されている書籍】
 
 大学の休暇で家に戻ったポーリィは、自分の記憶が奇妙な二重性を帯びていることに気づいて愕然とする。懐かしいはずの写真の印象が微妙に記憶とずれていたり、愛読していた本の内容が違っていたり。友達やボーイフレンドのこと、家族のエピソード、何もかも本当にあったことのはずなのに、どこか違和感を覚えてしまうのはなぜ? たしかに起こったはずの出来事と対応しない、別の記憶が浮かんでくるのはなぜ? ポーリィは真実を求めるために、子供時代の出来事を順番にたどりはじめる。
この回想の少女時代が素晴らしい。不思議な出来事が不思議なままに信じられ、英雄の物語に胸躍らせて、ごっこ遊びに夢中になったあの頃! 恋なんかより楽しいことが山ほどあって、だから、やたらと男の子の目を気にするハイティーンのお姉さん世代を見るにつけ〈あーあ! とポーリィは思った。どうして女の子なんかみんな、十五になったら法律でどこかに閉じこめてしまわないんだろう? やることったらばかばかりなのに!〉なんて憤慨したりして。ポーリィの一挙一動、一喜一憂に、あの頃の自分の姿が重なり、歓びに満たされること必定だ。
さて、本物の記憶を取り戻したポーリィはというと――。一番大切な人を救うため再び魔法の力を信じ、自分に偽の記憶を植えつけた邪悪な存在に一人立ち向かっていくのだ。その凛々(りり)しさといったら! 全ての婦女子かくあるべし。読み始めたら止まらない、読み終わっても離れられない。自分の中のちっちゃな女の子を蘇らせてくれる傑作ファンタジーなのだ。
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