書評

『ケアと編集』(岩波書店)

  • 2025/09/01
ケアと編集 / 白石 正明
ケアと編集
  • 著者:白石 正明
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(256ページ)
  • 発売日:2025-04-22
  • ISBN-10:4004320631
  • ISBN-13:978-4004320630
内容紹介:
もはやこれまでと諦めてうなだれたとき、足元にまったく違うモノサシが落ちている。与えられた問いの外に出てみれば、あらふしぎ、あなたの弱さは克服すべきものじゃなく、存在の「傾き」とし… もっと読む
もはやこれまでと諦めてうなだれたとき、足元にまったく違うモノサシが落ちている。与えられた問いの外に出てみれば、あらふしぎ、あなたの弱さは克服すべきものじゃなく、存在の「傾き」として不意に輝きだす──。〈ケアをひらく〉の名編集者が一人ひとりの弱さをグッと後押し。自分を変えずに生きやすくなる逆説の自他啓発書。

目 次

Ⅰ いかにして編集の先生に出会ったか
1 ケアとは
刹那的なケア
リハビリの昼と夜
失禁と世界の回復
太陽と空気と地面とケア
2 べてるの家との出会い
意外に遠い福祉と医療
病院のにおい
もうけている作業所
網走での出会い
自分自身で、共に
「反」ではなく「非」
戦わないでさっさと逃げる
3 編集の先生
試されている感じがしない
肯定と否定の外側で
「そこがいいね!」がなぜ通用するか
〈図〉は変えないで〈地〉を変える
「商業」という魔法
医学的編集とソーシャルワーク的編集

Ⅱ ズレて離れて外へ
1 問いの外に出ざるを得ない人たち
問いの外に思考が流れてしまう人たち
風変わりな言葉たち
主語が患者と入れ替わる
土管の中で話を聞く
二つのことを同時に伝える
因果沼から“かどわかし”へ
問いの圏外に出るために
2 分母を変えるのが編集
強いロボットは歩けない
依存症は依存が足りない
「治す」「克服する」ではない物語へ
3 吃音者は分母を変えて生きていく
『どもる体』のはじまり
吃音者の方法(1)〜(4)諦める・準備しない・波に乗る・周囲を変える
分母を変える一発逆転芸
4 面と向かわない力
架空の劇なのに言えない
後ろから、波のような温かい圧が……
「信」をめぐって――東大での体験
内面の「信」から、対人の「信」へ
「側聞」という方法
「正対」から逃れて

Ⅲ ケアは現在に奉仕する
1 ケアと社交
ヘルパーへのアドバイスがなぜ役に立つ?
社交するために社交する
対話するために対話する
過程に内在するための工夫
二〇年以上前の潔さんの言葉
2 消費と浪費と水中毒
過食嘔吐の記憶
「浪費」としての飲水へ
十全な、今ここでの満足
3 今ここわたし
「惚れる」の謎
人がもっとも充実しているとき
すでに本番は、はじまっている
リスクとワクワク
4 ナイチンゲールを真に受ける
生体は善き方向に進む
本来治りやすい病気である
ケアと痛み止め
俺はすでにして完全

Ⅳ ケアが発見する
1 原因に遡らない思考
因果論から構成論へ
幻視・幻聴を聞きまくってデータ収集
幻覚妄想の社会モデル?
前提を変えること
2 手を動かすより口を動かせ
依存症の回復モデル
マイノリティの逆襲?
「ケア論的転回」としてのハームリダクション
3 同じと違う
中井久夫と発達障害
見ている世界が違う
住む星が違うから体も違う
量的な違いが無視される
発達障害と「脳の多様性」
言語化への努力
4 いつも二つある
輻輳する時間
チキンカレーとラムカレー
食べると逃げるが併走する
一列に並べることの利点

Ⅴ 「受け」の豊かさに向けて
1 蘭の花のように愛でる
ALSとは
身体への着目
意図の推測から勝手な解釈へ
蘭の花のように
生を享受する人
2 受ける人
接続詞はドアを閉める
世界は受け取ることで発生する
「いる」のは忙しい
受け身と可能がなぜ同じ言葉なのか
3 いい「波」はどこから来るか
よそに行ったら縛るから
「内面」という無間地獄に落ちる前に
べてるに来れば病気が出る
なぜ、いい「波」が来るのか
規範から遠く離れて
4 受動性と偶然性
蹴る前に受けるスポーツ
受動性や偶然性が排除される
中動態と能動的受動
弱い編集

Ⅳ 弱い編集――ケアの本ができるまで
1 山の上ホテルのペーパーナプキン
――中井久夫・山口直彦著『看護のための精神医学』
地下の薄暗い書庫で
病院のカビ臭い倉庫で
ニワトリと卵と、拾う人
生活の政治学
普通への愛と憧れ
2 魔法と技術のあいだ
――本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ著『ユマニチュード入門』
「好き」にさせる技術
人間的というより動物的?
属人化と標準化のあいだで
3 弱いロボットの吸引力
――坂口恭平著『坂口恭平 躁鬱日記』、岡田美智男著『弱いロボット』
ひとり音楽会と中二病
閉じない人たち

あとがき
主な参考文献
著者は言わずと知れた医学書院の元名物編集者だ。彼は自身が2000年に立ち上げた<ケアをひらく>シリーズにおいて多くの優れた書き手を発掘した名伯楽である。「べてるの家」「当事者研究」「中動態」「ユマニチュード」など、このシリーズから広がった言葉は数多い。リタイア後も編集に関わり続けてきた著者が、あらためて50冊にも及ぶシリーズの全容を振り返る。一冊一冊が見たこともないアイディアの塊のようなシリーズだけに、そのさわりだけが次々と紹介される本書の内容は、豊穣な驚きと発見に満ちている。ケアを謳いつつも「支援臭」がまったく感じられないのも白石カラーなのだろう。

編集という作業は本人を変えずに背景を変えるという意味でソーシャルワーク的でありうると著者はいう。なるほど、このシリーズに「異形の本」が多い理由がわかった。シリーズ全体がひとつの壮大な「ケア文化」の領域として背景に控えているからこそ、数多(あまた)の異形が社会的インパクトを持ち得たのだろう。著者の引退後も、後進がこの文化を継承していくことを願ってやまない。
ケアと編集 / 白石 正明
ケアと編集
  • 著者:白石 正明
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(256ページ)
  • 発売日:2025-04-22
  • ISBN-10:4004320631
  • ISBN-13:978-4004320630
内容紹介:
もはやこれまでと諦めてうなだれたとき、足元にまったく違うモノサシが落ちている。与えられた問いの外に出てみれば、あらふしぎ、あなたの弱さは克服すべきものじゃなく、存在の「傾き」とし… もっと読む
もはやこれまでと諦めてうなだれたとき、足元にまったく違うモノサシが落ちている。与えられた問いの外に出てみれば、あらふしぎ、あなたの弱さは克服すべきものじゃなく、存在の「傾き」として不意に輝きだす──。〈ケアをひらく〉の名編集者が一人ひとりの弱さをグッと後押し。自分を変えずに生きやすくなる逆説の自他啓発書。

目 次

Ⅰ いかにして編集の先生に出会ったか
1 ケアとは
刹那的なケア
リハビリの昼と夜
失禁と世界の回復
太陽と空気と地面とケア
2 べてるの家との出会い
意外に遠い福祉と医療
病院のにおい
もうけている作業所
網走での出会い
自分自身で、共に
「反」ではなく「非」
戦わないでさっさと逃げる
3 編集の先生
試されている感じがしない
肯定と否定の外側で
「そこがいいね!」がなぜ通用するか
〈図〉は変えないで〈地〉を変える
「商業」という魔法
医学的編集とソーシャルワーク的編集

Ⅱ ズレて離れて外へ
1 問いの外に出ざるを得ない人たち
問いの外に思考が流れてしまう人たち
風変わりな言葉たち
主語が患者と入れ替わる
土管の中で話を聞く
二つのことを同時に伝える
因果沼から“かどわかし”へ
問いの圏外に出るために
2 分母を変えるのが編集
強いロボットは歩けない
依存症は依存が足りない
「治す」「克服する」ではない物語へ
3 吃音者は分母を変えて生きていく
『どもる体』のはじまり
吃音者の方法(1)〜(4)諦める・準備しない・波に乗る・周囲を変える
分母を変える一発逆転芸
4 面と向かわない力
架空の劇なのに言えない
後ろから、波のような温かい圧が……
「信」をめぐって――東大での体験
内面の「信」から、対人の「信」へ
「側聞」という方法
「正対」から逃れて

Ⅲ ケアは現在に奉仕する
1 ケアと社交
ヘルパーへのアドバイスがなぜ役に立つ?
社交するために社交する
対話するために対話する
過程に内在するための工夫
二〇年以上前の潔さんの言葉
2 消費と浪費と水中毒
過食嘔吐の記憶
「浪費」としての飲水へ
十全な、今ここでの満足
3 今ここわたし
「惚れる」の謎
人がもっとも充実しているとき
すでに本番は、はじまっている
リスクとワクワク
4 ナイチンゲールを真に受ける
生体は善き方向に進む
本来治りやすい病気である
ケアと痛み止め
俺はすでにして完全

Ⅳ ケアが発見する
1 原因に遡らない思考
因果論から構成論へ
幻視・幻聴を聞きまくってデータ収集
幻覚妄想の社会モデル?
前提を変えること
2 手を動かすより口を動かせ
依存症の回復モデル
マイノリティの逆襲?
「ケア論的転回」としてのハームリダクション
3 同じと違う
中井久夫と発達障害
見ている世界が違う
住む星が違うから体も違う
量的な違いが無視される
発達障害と「脳の多様性」
言語化への努力
4 いつも二つある
輻輳する時間
チキンカレーとラムカレー
食べると逃げるが併走する
一列に並べることの利点

Ⅴ 「受け」の豊かさに向けて
1 蘭の花のように愛でる
ALSとは
身体への着目
意図の推測から勝手な解釈へ
蘭の花のように
生を享受する人
2 受ける人
接続詞はドアを閉める
世界は受け取ることで発生する
「いる」のは忙しい
受け身と可能がなぜ同じ言葉なのか
3 いい「波」はどこから来るか
よそに行ったら縛るから
「内面」という無間地獄に落ちる前に
べてるに来れば病気が出る
なぜ、いい「波」が来るのか
規範から遠く離れて
4 受動性と偶然性
蹴る前に受けるスポーツ
受動性や偶然性が排除される
中動態と能動的受動
弱い編集

Ⅳ 弱い編集――ケアの本ができるまで
1 山の上ホテルのペーパーナプキン
――中井久夫・山口直彦著『看護のための精神医学』
地下の薄暗い書庫で
病院のカビ臭い倉庫で
ニワトリと卵と、拾う人
生活の政治学
普通への愛と憧れ
2 魔法と技術のあいだ
――本田美和子、イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ著『ユマニチュード入門』
「好き」にさせる技術
人間的というより動物的?
属人化と標準化のあいだで
3 弱いロボットの吸引力
――坂口恭平著『坂口恭平 躁鬱日記』、岡田美智男著『弱いロボット』
ひとり音楽会と中二病
閉じない人たち

あとがき
主な参考文献

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年8月23日

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