書評
『ワイルド・ミートとブリー・バーガー』(東京創元社)
主人公は白人(ハオレ)になりたいと夢みている男の子みたいな日系ハワイ人少女ラヴィ。標準英語がうまく話せなくて教師からは叱られ、家が貧乏だから週末には一家総出でマカダミアナッツの収穫を手伝いにいかなくちゃならない。たった一人の親友は女の子みたいな男の子ジェリーで、だからクラスメートたちからは「ホモとレズのカップルだ」なんてバカにもされている。でも、ラヴィはあんまりくよくよしたりしない。イヤなこと、つらいこともいっぱいあるけど、大好きなジェリーや、貧しいけれど仲のいい家族がそばにいてくれるから――。
これは一九七十年代を背景に、ハワイ島のヒロに生まれた少女の日常を、ピジン英語というハワイ現地で使われているブロークン・イングリッシュで綴った、おかしくって、それでいてちょっぴり切ない物語なのだ。
標準英語の授業で、先生から「大きくなったら何になりたいか」と聞かれ、「もうすぐおとなんなって、で、なりたいもんになる。とやかく言うやつは、ぶっ殺してやります」とピジン英語で答えるラヴィ。リッチで華やかでグルメなハオレの生活やシャーリー・テンプルみたいに金髪に輝く巻き毛をうっとり夢みて、ピジン英語や両親のことや自分たちの食べているものをこっそり恥ずかしいって思ってるラヴィ。恋愛についてあれこれ想像をたくましくするラヴィ。生理が始まって死ぬほどびびっちゃうラヴィ。
鼻っ柱が強くて素朴な観察眼を持ったラヴィの身の回りで起こるたくさんの出来事が、まるで友達の作文か日記をのぞくような心地で読めてしまう。長編小説というよりは、連作短編集のような味わいのあるこの物語を、とりわけ女の子に読んでほしい。可愛くなくて、頭もよくなくて、お金持ちでもなく生まれてきた、コンプレックスだらけの女の子が、どうやって思春期という多感かつ残酷な季節を乗り切っていけばいいのか。そんなアレコレを共感のできるシンプルな文章で綴って、元気とガッツを注入してくれる一冊だから。
誕生日のプレゼントに、「チェッカーズとポゴ・ショー(お一人様限り)おみやげつき(ギブソンおもちゃデパートで五百ドル相当の品)スカイ・スライドご利用、無限回」なんて手づくりのカードをくれたジェリーが、滑り台のてっぺんでこんなことを言ってくれるシーンがある。「いつだって、ハッピーエンドなんだよ、ラヴィ。滑り台が二十倍の大きさだと思って、両手をあげてみな。そうしたら、下の砂がつくまえに、無限だって感じがするよ」。こんなステキなアドバイスをくれる親友が一人いるだけで、多少のつらいことは乗り越えていけるものじゃない?
それに、もっと年を経てからじゃなきゃ理解できないと思うんだけど、コンプレックスってマイナスの札が切り札に転じる瞬間はいつか必ずやってくるんだから。ラヴィみたいに、ユーモアに溢れたタフで柔らかい心をなくさなければ、きっと。
これは一九七十年代を背景に、ハワイ島のヒロに生まれた少女の日常を、ピジン英語というハワイ現地で使われているブロークン・イングリッシュで綴った、おかしくって、それでいてちょっぴり切ない物語なのだ。
標準英語の授業で、先生から「大きくなったら何になりたいか」と聞かれ、「もうすぐおとなんなって、で、なりたいもんになる。とやかく言うやつは、ぶっ殺してやります」とピジン英語で答えるラヴィ。リッチで華やかでグルメなハオレの生活やシャーリー・テンプルみたいに金髪に輝く巻き毛をうっとり夢みて、ピジン英語や両親のことや自分たちの食べているものをこっそり恥ずかしいって思ってるラヴィ。恋愛についてあれこれ想像をたくましくするラヴィ。生理が始まって死ぬほどびびっちゃうラヴィ。
鼻っ柱が強くて素朴な観察眼を持ったラヴィの身の回りで起こるたくさんの出来事が、まるで友達の作文か日記をのぞくような心地で読めてしまう。長編小説というよりは、連作短編集のような味わいのあるこの物語を、とりわけ女の子に読んでほしい。可愛くなくて、頭もよくなくて、お金持ちでもなく生まれてきた、コンプレックスだらけの女の子が、どうやって思春期という多感かつ残酷な季節を乗り切っていけばいいのか。そんなアレコレを共感のできるシンプルな文章で綴って、元気とガッツを注入してくれる一冊だから。
誕生日のプレゼントに、「チェッカーズとポゴ・ショー(お一人様限り)おみやげつき(ギブソンおもちゃデパートで五百ドル相当の品)スカイ・スライドご利用、無限回」なんて手づくりのカードをくれたジェリーが、滑り台のてっぺんでこんなことを言ってくれるシーンがある。「いつだって、ハッピーエンドなんだよ、ラヴィ。滑り台が二十倍の大きさだと思って、両手をあげてみな。そうしたら、下の砂がつくまえに、無限だって感じがするよ」。こんなステキなアドバイスをくれる親友が一人いるだけで、多少のつらいことは乗り越えていけるものじゃない?
それに、もっと年を経てからじゃなきゃ理解できないと思うんだけど、コンプレックスってマイナスの札が切り札に転じる瞬間はいつか必ずやってくるんだから。ラヴィみたいに、ユーモアに溢れたタフで柔らかい心をなくさなければ、きっと。
初出メディア

毎日中学生新聞(終刊) 2003年1月13日
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