書評

角田 光代「2025年 この3冊」毎日新聞|<1>佐藤 正午『熟柿』(角川書店)<2>リチャード・フラナガン、渡辺 佐智江訳『第七問』(白水社)<3>伊東 順子『わたしもナグネだから』(筑摩書房)

  • 2025/12/21

2025年「この3冊」

<1>佐藤 正午『熟柿』(角川書店)

<2>リチャード・フラナガン、渡辺 佐智江訳『第七問』(白水社)

<3>伊東 順子『わたしもナグネだから』(筑摩書房)


<1>事故の加害者となった女性を描く『熟柿』は、たんたんとした文章で彼女の日々が綴(つづ)られる。絶望しても、裏切られても、繰り返すしかない生活が、私たちを救うのだと思わせてくれる小説だった。

<2>『第七問』。SF小説の巨匠、原爆開発のきっかけを作った物理学者、日本軍捕虜となった父親、それらが立体的に浮かび上がってつながり、答えの出ない問いを突きつける。答えが出なくとも、私たちは考え続けなければならない。

<3>韓国文化にくわしい著者が、海外移住したコリアンや在韓の中国人などから話を聞いて描かれた『わたしもナグネだから』。個人史から、世界の歴史が透けて見えてくるところが、本書のしずかな凄(すご)みだ。ときに壮絶ながら、けっして自由と尊厳をあきらめない人々の姿に、深く胸打たれた。

熟柿 / 佐藤 正午
熟柿
  • 著者:佐藤 正午
  • 出版社:KADOKAWA
  • 装丁:単行本(368ページ)
  • 発売日:2025-03-27
  • ISBN-10:4041146593
  • ISBN-13:978-4041146590
内容紹介:
激しい雨の降る夜、眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねたかおりは、轢き逃げの罪に問われ、裁判中に息子、拓を出産する。出所後息子に会いたいがあまり、園児連れ去り事件を起こした彼女は息子との… もっと読む
激しい雨の降る夜、眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねたかおりは、轢き逃げの罪に問われ、裁判中に息子、拓を出産する。出所後息子に会いたいがあまり、園児連れ去り事件を起こした彼女は息子との接見を禁じられ、追われるように西へ西へと各地を流れてゆく。自らの罪を隠して生きる彼女にやがて、過去にまつわるある秘密が明かされる。『鳩の撃退法』(山田風太郎賞受賞)『月の満ち欠け』(直木賞受賞)著者による最新長編小説。

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第七問 / リチャード・フラナガン
第七問
  • 著者:リチャード・フラナガン
  • 翻訳:渡辺 佐智江
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(270ページ)
  • 発売日:2025-08-26
  • ISBN-10:4560091862
  • ISBN-13:978-4560091869
内容紹介:
終末的未来を描いた小説家、原爆開発の端緒を開いた物理学者、〈死の鉄路〉から生還した父と家族、流刑地だった国と人々の歴史を描く

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わたしもナグネだから ――韓国と世界のあいだで生きる人びと / 伊東 順子
わたしもナグネだから ――韓国と世界のあいだで生きる人びと
  • 著者:伊東 順子
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:単行本(256ページ)
  • 発売日:2025-11-12
  • ISBN-10:4480815899
  • ISBN-13:978-4480815897
内容紹介:
北朝鮮出身の元NATO軍軍医、アメリカに渡った韓国人武闘家、中国朝鮮族の映画監督チャン・リュル、日本で出版社「クオン」を始めたキムさん……韓国と世界のあいだの人生を聞きとる、他にはない… もっと読む
北朝鮮出身の元NATO軍軍医、アメリカに渡った韓国人武闘家、中国朝鮮族の映画監督チャン・リュル、日本で出版社「クオン」を始めたキムさん……
韓国と世界のあいだの人生を聞きとる、他にはないノンフィクション
===
「とにかく韓国の外に出たかった。そのほうが故郷に近づけるような気がしたのです」
(北朝鮮出身の元NATO軍軍医ドクター・チェ)

「ニューヨークでもソウルでも、街には孤独な人がとても多いのです」
(韓国で最初のシンガーソングライター ハン・デス)

「韓国もなかなかいい国になったよ」
(仁川で中華料理店を営む華僑の韓さん)

「民主主義の究極はその自由な社会にある」
(書店「チェッコリ」店主&出版社「クオン」社長キム・スンボク)

韓国を拠点に活動する著者が、海を渡ったコリアンや在韓の華僑たちに会い、話を聞き、個人史と韓国史・世界史の交差を描く。
===
【目次】
はじめに
放浪の医師 元NATO軍の軍医ドクター・チェ
徒手空拳のコリアン・ファイター 鞍山の老武道家マスター・リー
わたしもナグネだから 中国朝鮮族の映画監督チャ ン・リュルと東アジア
国境の島の梨畑 対馬に移住した韓さんの話
釜山のロシア人街 赤いカーディガンを着た女性、そしてビクトル・ツォイ
赤い牌楼はいつできたのか? 二人の老華僑とチャイナタウン
「幸福の国」を探す ハン・デスとオクサナの旅
民主主義のために、私たちは自由に生きる キム・スンボクと日本
おわりに

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毎日新聞

毎日新聞 2025年12月13日

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