書評
『美術泥棒』(亜紀書房)
秘蔵するための営為
映画『オーシャンズ11』を例にとるまでもなく、スマートで機智(きち)に富んだ盗賊は、人を惹(ひ)きつける。本書は実在するカップルが、美術品をかすめていく様子を、細部まで活写したノンフィクションである。スイスのアーミーナイフ1本で、監視員や防犯カメラの目をかいくぐる爽快さ。主犯のステファヌ・ブライトヴィーザーの目的は、盗品を売りさばき、金銭を得るところにはない。肉親にも出入りを禁じた屋根裏部屋の自室をプライベートな美術館として、自らの審美眼にかなったコレクションを続けるところにあった。彼の強迫観念は、窃盗ではなく、蒐集(しゅうしゅう)にあるというのである。
大英博物館をはじめ植民地をかつて持った国の所蔵品には、少なからず略奪品が含まれている。かつては国家が行えば犯罪ではなかった。個人ならば…と問いを投げかける。
かくして、私たちは稀代(きだい)の盗賊の生涯を賭けた営為を、悪徳と知りつつ愉悦を感じてしまうのだった。
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