自著解説

『誰も農業を知らない: プロ農家だからわかる日本農業の未来』(原書房)

  • 2019/08/05
誰も農業を知らない: プロ農家だからわかる日本農業の未来 / 有坪 民雄
誰も農業を知らない: プロ農家だからわかる日本農業の未来
  • 著者:有坪 民雄
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(307ページ)
  • 発売日:2018-12-12
  • ISBN:4562056134
内容紹介:
大規模農業論、6次産業化……机上の改革案が日本農業をつぶす。農家減少・高齢化の衝撃、「ビジネス感覚」農業の盲点、農薬敵視の愚、遺伝子組み換え作物の是非、移民……専業農家のリアルすぎる目から見た日本農業の現状と突破口。目からウロコがボロボロ落ちてくる、誰も書かなかった〝ぶっちゃけ〟日本農業論!
昨年(2018年)12月に出た、専業農家兼ライター、有坪民雄氏の『誰も農業を知らない』という本がいま注目を集めている。ハイテク農業、農薬や遺伝子組み換え作物の問題、農家減少と高齢化の現実その他、現在の日本の農業について農家の立場から多岐にわたって率直に語り、現在5刷。地味な農業書としては異例のヒットとなった。著者の有坪氏に自著について語ってもらった。

その「常識」は正しいか?

『誰も農業を知らない』という本を昨年(2018年)12月に出した。大学卒業後、経営コンサルタント会社に勤務し、退職して専業農家になってから20年以上経つ。その間、多くの人が農業について語り、論じるのを聞いたり見たりしてきた。率直に言ってかなりの違和感を覚えることが多かった。
そうした私の違和感のたとえばひとつが、彼ら論客たちの唱える農業論の多くが、実は議論の土台そのものが現実とはかけ離れているのではないかという疑念だった。典型的な例が、アメリカの農業は日本の農業とは比較にならないほど優れている、という「常識」である。

アメリカの農家の9割が、農業収入よりも農業収入以外の収入がはるかに大きい「兼業農家」である。
そんなことを書いたら、多くの人が不審感をいだくだろう。何百ヘクタールもある広大な農地を大型の農機で耕すアメリカ農家の大部分が兼業農家であるはずがない――普通の感覚を持つ人がそう考えるのも無理はない。私も調べるまでは、同じように思っていた。 

しかしこれは、アメリカ農務省のサイトに書いてある事実なのである。アメリカ農務省(USDA)のホームページから引用しよう。


ERS(経済調査局)の2017年の調査によると、アメリカ農家の88.8%が売上(利益ではない)35万ドル以下で、全体の農業産出額に占めるシェアは25.87%である。専業農家と思われる35万ドル以上の売上をあげる農家は全体の9%で、全農業産出額に占めるシェアは60%を越える。Non-family すなわち非家族経営の農家は全体の2.2%、産出額に占めるシェアは12.6%である。ここで、売上35万ドル以下の農家はどんな農家かを見てみよう。


やはり2017年の調査によると、売上35万ドル以下の農家は、農業所得がほとんどなく、農業外収入が圧倒的に大きい「兼業農家」である。

コメを3反から4反(30~40アール=0.3~0.4ヘクタール)作っているだけの日本の兼業農家は、農業所得が実質マイナスになっていることはよく知られているが、現在の日本ではこうした赤字の兼業農家は減り続け、全体の3割ほどが専業農家となっている。アメリカも同様に赤字の小規模農家は減りつつあるが、実は日本の方が小規模農家の減少、すなわち農家の専業化は進んでいるのだ。違いと言えばスケールだけだ。
日本の小規模な兼業農家が3反から4反やるところを、アメリカの小規模な兼業農家は、500エーカー(200ヘクタール)、1000エーカー(400ヘクタール)程度やっているのが違う。1000エーカー(400ヘクタール)などと聞くと日本の感覚では巨大な面積のように思うかもしれないが、今のアメリカの専業農家の規模は、5000エーカー(2000ヘクタール)程度は普通である。500エーカー、1000エーカーなどは規模としては「零細」である。
要するに、アメリカの農家のかなり多くは零細であり、農業外収入のほうが大きい兼業農家だったのだ。われわれの「常識」は間違っていたのである。
 
『誰も農業を知らない』という本を上梓して半年になる。もともとJBpressというビジネスサイトに連載していた内容をもとにしたわけだが、連載していた頃から不思議なことがあった。
不思議なこととは、炎上しなかったことだ。書いてある内容は、農薬や遺伝子組み換え作物は安全だとか、日本農業はこうすればいいと言いたがる論者たちに異議を唱えることばかりである。普通に考えれば炎上ネタの宝庫のような記事を書いていたのに、全くと言っていいほど炎上しない。それどころか、多いときには何百とリツイートされ、2000を超えるFacebookの「いいね」をもらったこともある。
 
ネットの世界は炎上しやすい。はたから見ていて確かにこれは炎上するだろうと思える記事や書き込みが炎上するなら話はわかるが、たとえばタレントさんが日常のひとコマを書いただけでいっせいに攻撃されるなど、なぜこの内容で炎上するのか理解に苦しむことさえある。
自分で言うのもなんだが、私が書いてきたネタは炎上しやすいと思う。にもかかわらず、なぜ炎上しないのか……炎上しないにこしたことはないが、あまりに炎上と無縁だと、別の意味で怖くなる。私の言うことなど無視されているのではないかと思ってしまうのである。上記のようなアメリカ農業の実態を書いたときなど、読者の反応があまりにもなくて、がっかりしたのを覚えている。

それでもネットにアップされている、本書を読まれた読者の感想を読んでいて気がつくことはある。これまでの農業論に納得していない人が少なくなかったということだ。特に、農家や農業関係者、つまり農業の現実を知っている人たちにそうした違和感を持つ人が多いような感触がある。そして、そんな違和感を持つ人のニーズに応えられたようで、出版元によれば今のところ地方でよく売れているという。

地方で売れるのはよいことだが、東京でも売れてもらわないと困る。なぜなら、農業の行く末に関心を持つ人は、東京にも多いからだ。私は巷(ちまた)の農業論の多くをピンボケだと断じた。しかし、私から見れば論そのものはピンボケではあっても、真剣に日本の農業を憂えてくれている人がたくさんいることは重々承知している。農業について憂えている、しかし善意が空回りしがち――そんな東京の読者にも読んでいただきたいものだと思う。

ちなみに農業を職業として選択したいと思われる方には、もう1冊読んでいただきたい本がある。拙著『農業に転職! 就農は『経営計画』で9割決まる」である。
自分が就農するのに必要な資金はいくらか? 農業労働に耐えていけるのか? 収入はどれくらいになりそうか? など、新規就農したい人には多くの疑問があるだろう。それで就農フェアなどに行って調べようとしても、多くの場合、満足な答えは得られない。しかし自分で経営計画を立てると、自分で全て答えを見つけることができる。その上、経営計画書を見せれば、就農を支援する機関の協力も1分で取り付けることができるのだ。
そんなことを書いたら、多くの人が不審感をいだくだろう――普通の感覚を持つ人がそう考えるのも無理はない。私も調べるまでは、同じように思っていた……。

[書き手]有坪民雄(農家・ライター)
1964年兵庫県生まれ。香川大学経済学部経営学科卒業後、船井総合研究所に勤務。94年に退職後、専業農家に転じ、現在に至る。2ヘクタールの農地で山田錦を中心にコメの栽培をするほか、和牛60頭を肥育。主な著書に『農業に転職!』(2019年、プレジデント社)『農業のしくみ』(2003年、日本実業出版社)『農業で儲けたいならこうしなさい!』(2009年、SBクリエイティブ)などがある。
誰も農業を知らない: プロ農家だからわかる日本農業の未来 / 有坪 民雄
誰も農業を知らない: プロ農家だからわかる日本農業の未来
  • 著者:有坪 民雄
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(307ページ)
  • 発売日:2018-12-12
  • ISBN:4562056134
内容紹介:
大規模農業論、6次産業化……机上の改革案が日本農業をつぶす。農家減少・高齢化の衝撃、「ビジネス感覚」農業の盲点、農薬敵視の愚、遺伝子組み換え作物の是非、移民……専業農家のリアルすぎる目から見た日本農業の現状と突破口。目からウロコがボロボロ落ちてくる、誰も書かなかった〝ぶっちゃけ〟日本農業論!

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ALL REVIEWS 2019年8月5日

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