この度、政治家・官僚・安全保障関係者への政治外交史講義経験も持つ岡崎大さんが、研究成果をまとめた『仕組まれた第二次世界大戦』を出版。あの大戦を、国際政治のなかで「仕組まれた」世界大戦という観点から検証します。
当時の日本が置かれていた状況を冷静に検証することで、現代に生きる私たち日本人が抱える地政学的リスクを、歴史的観点からとらえ直すことができる書です。
今回、この本の中から「はじめに」を全文公開してお届けします。
日本で教えられてこなかった、第二次世界大戦勃発の外的要因
今年(2025年)、我が国は終戦からちょうど80周年、昭和元年から数えると100年目となる節目の年を迎える。そしてわれわれは、そろそろ先の大戦、すなわち、第二次世界大戦というものを、歴史の一事件としてとらえ認識すべき時期に来ているのではないだろうか。自らが今生きている時代を正確に洞察することなどできはしない。まして、自国が敗戦国である場合、事実を置き去りにし、戦勝国の意向に沿った時代の判定を優先させなくてはならなかった時期はなおさらである。
だが時が過ぎ、直接的体験が過去のものとなり、戦勝国の影響力が薄れることで、当時のさまざまな出来事をもう一度丁寧に調査し、真相に最も近いと評価できる成果を、真の「歴史」として認定させていくことが可能になる。つまりその時期が来たのではないか、というのである。
今日に至るまで、日本がなぜ破滅的な戦争の道へと進んでいったのかについて、数多くの研究や議論がなされてきた。そして我が国における一般教育や、歴史研究において取り扱われているものの多くは、内的要因の総括、つまり、当時の日本の政治や経済、そして軍部の問題に焦点を当てたものが大半であると言える。無論、それらは先の敗戦を考察するうえでの重要な取り組みの一つであり、否定する根拠など、どこにもない。
しかし、事件とは、内的要因と外的要因が積み重なり起きるものである。
日本が対米開戦を発端として第二次世界大戦に参戦したことについて、当時、日本を取り巻いていた世界の情勢がどのようなものであり、各国の指導者が何を目論み、それが日本へどう作用し、対米開戦へと繫がっていったのかという外的要因について、少なくとも我が国の歴史教育において、教えられることはほぼ無いといってよいだろう。
国家というものは、自国の都合だけで営めるものではない。常に世界情勢という大きな波に翻弄されながら営み続ける他はないのである。そしてその波とは、その時代を生きる人々によって構成される、民族や国家といった集合体が、他の集合体とぶつかり合うことで出現する、大小さまざまなうねりから生じるものである。そのうねりの彼我双方の根幹を熟視しなくては、歴史の真相を解明することなどできはしないのである。
そこで本書は、第二次世界大戦を敗戦国という当事者としての立場からではなく、歴史的事件の一つの研究対象として、改めて第二次世界大戦勃発と、我が国が対米開戦という選択に追い込まれたことの原因を、多角的視点から検証し詳らかにしたいと思う。それにより、現代教育において施されている内的要因を主とした歴史認識に対し、それと同等の地位を有する、外的要因を主とした歴史認識を確立させることができる。
本書を「春秋の筆法」の書とみなしてほしくはない。外的要因を知り、内的要因と組み合わせ、立体的に検証することによって、初めてわれわれは歴史の真相に辿り着けるのである。そこでようやく、われわれは第二次世界大戦における日本の歩みを公正に総括し、次世代への学びとしていくことが叶うのである。
[書き手]岡崎大