コラム

角田 光代「2024年 この3冊」毎日新聞|ハン・ガン『別れを告げない』(白水社)、江國香織『川のある街』(朝日新聞出版)、佐藤 正午『冬に子供が生まれる』(小学館)

  • 2025/01/15

2024年「この3冊」

(1)『別れを告げない』ハン・ガン著(白水社)

(2)『川のある街』江國香織著(朝日新聞出版)

(3)『冬に子供が生まれる』佐藤正午著(小学館)


<1>は、幻想的で静謐な語り口で、一九四八年に済州島で起きた虐殺事件について掘り下げていく。人が人にたいしてなし得るもっとも残酷なことを、語り手の女性と、その友人は、生死の境があいまいな空間で話し続ける。読むことがすでに体験だった。

<2>はタイトルどおり、川のある三つの街を舞台にした小説集。三話目で私は小説からものすごい幻影が立ち上がるのを感じ、震えた。時間という川のかたわらで、人が人とかかわり、生き、老いていくことの凄みが、しずかに脈打っている。

<3>には、ただただ驚いた。そんなことがあるのか、と思いつつ、そんなことはあるのだと細部に納得させられる。結末を知っていても、読み返したら何度でも驚くだろう。謎解きのような物語だが、謎とは私たちの人生と現実、そのものである。

別れを告げない / ハン・ガン
別れを告げない
  • 著者:ハン・ガン
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2024-03-29
  • ISBN-10:4560090912
  • ISBN-13:978-4560090916
内容紹介:
国際ブッカー賞受賞作家、待望の最新長篇韓国で発売後1か月で10万部突破のベストセラー!韓国人として初のメディシス賞受賞作作家のキョンハは、虐殺に関する小説を執筆中に、何かを暗示す… もっと読む
国際ブッカー賞受賞作家、待望の最新長篇
韓国で発売後1か月で10万部突破のベストセラー!
韓国人として初のメディシス賞受賞作

作家のキョンハは、虐殺に関する小説を執筆中に、何かを暗示するような悪夢を見るようになる。ドキュメンタリー映画作家だった友人のインソンに相談し、短編映画の制作を約束した。
済州島出身のインソンは10代の頃、毎晩悪夢にうなされる母の姿に憎しみを募らせたが、済州島4・3事件を生き延びた事実を母から聞き、憎しみは消えていった。後にインソンは島を出て働くが、認知症が進む母の介護のため島に戻り、看病の末に看取った。キョンハと映画制作の約束をしたのは葬儀の時だ。それから4年が過ぎても制作は進まず、私生活では家族や職を失い、遺書も書いていたキョンハのもとへ、インソンから「すぐ来て」とメールが届く。病院で激痛に耐えて治療を受けていたインソンはキョンハに、済州島の家に行って鳥を助けてと頼む。大雪の中、辿りついた家に幻のように現れたインソン。キョンハは彼女が4年間ここで何をしていたかを知る。インソンの母が命ある限り追い求めた真実への情熱も……
いま生きる力を取り戻そうとする女性同士が、歴史に埋もれた人々の激烈な記憶と痛みを受け止め、未来へつなぐ再生の物語。フランスのメディシス賞、エミール・ギメ アジア文学賞受賞作。

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川のある街 / 江國 香織
川のある街
  • 著者:江國 香織
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:ハードカバー(232ページ)
  • 発売日:2024-02-07
  • ISBN-10:4022519614
  • ISBN-13:978-4022519610
内容紹介:
はかなく移りゆく濃密な生の営み。人生の三つの〈時間〉を川の流れる三つの〈場所〉から描く、生きとし生けるものを温かく包みこむ慈愛の物語。 * * *ひとが暮らすところには、いつ… もっと読む
はかなく移りゆく濃密な生の営み。

人生の三つの〈時間〉を川の流れる三つの〈場所〉から描く、
生きとし生けるものを温かく包みこむ慈愛の物語。

* * *

ひとが暮らすところには、いつも川が流れている。

両親の離婚によって母親の実家近くに暮らしはじめた望子。そのマンションの部屋からは郊外を流れる大きな川が見える。父親との面会、新しくできた友達。望子の目に映る景色と彼女の成長を活写した「川のある街」。

河口近くの市街地を根城とするカラスたち、結婚相手の家族に会うため北陸の地方都市にやってきた麻美、出産を控える三人の妊婦……。閑散とした街に住まうひとびとの地縁と鳥たちの生態を同じ地平で描く「川のある街 Ⅱ」。

四十年以上も前に運河の張りめぐらされたヨーロッパの街に移住した芙美子。認知症が進行するなか鮮やかに思い出されるのは、今は亡き愛する希子との生活だ。水の都を舞台に、薄れ、霞み、消えゆく記憶のありようをとらえた「川のある街 Ⅲ」。

〈場所〉と〈時間〉と〈生〉を描いた三編を収録。

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冬に子供が生まれる / 佐藤 正午
冬に子供が生まれる
  • 著者:佐藤 正午
  • 出版社:小学館
  • 装丁:単行本(370ページ)
  • 発売日:2024-01-30
  • ISBN-10:4093867070
  • ISBN-13:978-4093867078
内容紹介:
その年の七月、丸田君はスマホに奇妙なメッセージを受け取った。現実に起こりうるはずのない言い掛かりのような予言で、彼にはまったく身におぼえがなかった。送信者名は不明、090から始まる… もっと読む
その年の七月、丸田君はスマホに奇妙なメッセージを受け取った。
現実に起こりうるはずのない言い掛かりのような予言で、彼にはまったく身におぼえがなかった。送信者名は不明、090から始まる電話番号だけが表示されている。
彼が目にしたのはこんな一文だった。

今年の冬、彼女はおまえの子供を産む

これは未来の予言。
起こりうるはずのない未来の予言。
だがこれは、まったく身におぼえのない予言とは言い切れないかもしれない。
これまで三十八年の人生の、どの時代かの場面に、「彼女」と呼ぶにふさわしい人物がいるのかもしれない。
そもそも、だれが何の目的でこの予言めいたメッセージを送ってきたのか。
丸田君は、過去の記憶の断片がむこうから迫ってくるのを感じていた──。

三十年前にかわした密かな約束、
二十年前に山道で起きた事故、
不可解な最期を遂げた旧友……

平凡な人生なんていったいどこにあるんだろう。
『月の満ち欠け』から七年、かつてない感情に心が打ち震える新たな代表作が誕生。読む者の人生までもさらけ出される、究極の直木賞受賞第一作!

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毎日新聞

毎日新聞 2024年12月14日

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