書評

『望楼館追想』(文藝春秋)

  • 2021/08/16
望楼館追想 / エドワード・ケアリー
望楼館追想
  • 著者:エドワード・ケアリー
  • 翻訳:古屋 美登里
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(561ページ)
  • 発売日:2002-10-01
  • ISBN-10:4163213201
  • ISBN-13:978-4163213200
内容紹介:
つねに白い手袋を身につけ、他人が愛したものを盗み、蒐集している《ぼく》が住むのは、古い邸宅を改造したマンション"望楼館"だ。人語を解さぬ"犬女"、外界をおそれテレ… もっと読む
つねに白い手袋を身につけ、他人が愛したものを盗み、蒐集している《ぼく》が住むのは、古い邸宅を改造したマンション"望楼館"だ。人語を解さぬ"犬女"、外界をおそれテレビを見つづける老女、全身から汗と涙を流しつづける元教師、厳格きわまる"門番"…彼らの奇矯な住人たちの隠された過去とは?彼らの奇行の「理由」が明かされるとき、凍りついていた時間は流れ出し、閉じていた魂が息を吹き返す…。美しくも異形のイメージで綴られた、痛みと苦悩、癒しと再生の物語。圧倒的な物語の力と繊細なたくらみをそなえた驚異の新人のデビュー長篇。
奇人変人が好きだ。彼らは、慣習という囲いに風穴をあけてくれる。今・此処(ここ)とは違うシステムで成立している世界、その存在の可能性を垣間見せてくれる。つまり、退屈な日常を打ち破ってくれる、ありがた~い方々なのだ。

だから我は愛す、エドワード・ケアリーの『望楼館追想』を。だって、奇人変人見本市小説なんだもの。舞台はヨーロッパのとある国の小さな町に建つ古い館。白い手袋を決してはずさず、他人が愛したものを盗み蒐集している語り手のフランシスをはじめ、この館の住人たちの奇矯な個性をまずは堪能してほしい。部屋から一歩も出ず、テレビを見続け、虚構の中に生きる老女。全身から汗と涙を流し続ける体毛のない元教師。人語を一切介さない犬女。「シッ」「あっちへいってろ」しか話さない門番。生ける屍のようなフランシスの父。そんな面々が、外界とはほとんど交わらず、時間が停止したような崩壊寸前の館で幸せに暮らしている。

ところが、新しい住人アンナの登場によって、死んでいた館の時間が動き始めてしまう。老女はテレビを消し、犬女は言葉を思い出す。寝たきりだったフランシスの母が目覚め、父が立ち上がり、望楼館の歴史を語り出す。そうしたこと全てが気にくわないフランシスだけは最後まで抵抗するのだが――。

『ブリキの太鼓』のオスカルを彷彿させる反社会的な性格を持つ奇人フランシスの語りがまとうグロテスクなユーモア。彼が蒐集する品々に関する寓話的エピソードの妙。その中でもとりわけ気味の悪いコレクションにまつわる謎。館を舞台にしていながら、ゴシックというよりはバロック。歪んだ感性が魅力の一冊なのだ。奇妙な味系小説が好きな方に熱烈推薦したい珍品中の珍品だ。

【文庫版】
望楼館追想 / エドワード・ケアリー
望楼館追想
  • 著者:エドワード・ケアリー
  • 翻訳:古屋 美登里
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:文庫(548ページ)
  • 発売日:2004-11-01
  • ISBN-10:4167661829
  • ISBN-13:978-4167661823
内容紹介:
古い邸宅を改造した不思議な集合住宅"望楼館"。他人の愛したものを盗み、収集する"ぼく"をはじめ、住人に奇妙な人物ばかり。人語を解さぬ"犬女"、汗と涙を流しつづける元教師…。彼らの過去には何が?人の魂の苦悩と再生を優しいまなざしで見つめ、圧倒的な物語の力で描き出す驚異の新人のデビュー作。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。



【この書評が収録されている書籍】
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド / 豊崎 由美
そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
  • 著者:豊崎 由美
  • 出版社:アスペクト
  • 装丁:単行本(560ページ)
  • 発売日:2005-11-29
  • ISBN-10:4757211961
  • ISBN-13:978-4757211964
内容紹介:
闘う書評家&小説のメキキスト、トヨザキ社長、初の書評集!
純文学からエンタメ、前衛、ミステリ、SF、ファンタジーなどなど、1冊まるごと小説愛。怒濤の239作品! 560ページ!!
★某大作家先生が激怒した伝説の辛口書評を特別袋綴じ掲載 !!★

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望楼館追想 / エドワード・ケアリー
望楼館追想
  • 著者:エドワード・ケアリー
  • 翻訳:古屋 美登里
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(561ページ)
  • 発売日:2002-10-01
  • ISBN-10:4163213201
  • ISBN-13:978-4163213200
内容紹介:
つねに白い手袋を身につけ、他人が愛したものを盗み、蒐集している《ぼく》が住むのは、古い邸宅を改造したマンション"望楼館"だ。人語を解さぬ"犬女"、外界をおそれテレ… もっと読む
つねに白い手袋を身につけ、他人が愛したものを盗み、蒐集している《ぼく》が住むのは、古い邸宅を改造したマンション"望楼館"だ。人語を解さぬ"犬女"、外界をおそれテレビを見つづける老女、全身から汗と涙を流しつづける元教師、厳格きわまる"門番"…彼らの奇矯な住人たちの隠された過去とは?彼らの奇行の「理由」が明かされるとき、凍りついていた時間は流れ出し、閉じていた魂が息を吹き返す…。美しくも異形のイメージで綴られた、痛みと苦悩、癒しと再生の物語。圧倒的な物語の力と繊細なたくらみをそなえた驚異の新人のデビュー長篇。

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初出メディア

婦人公論

婦人公論 2003年1月22日号

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