書評

『グールド魚類画帖[新装版]:十二の魚をめぐる小説』(白水社)

  • 2024/06/22
グールド魚類画帖[新装版]:十二の魚をめぐる小説 / リチャード・フラナガン
グールド魚類画帖[新装版]:十二の魚をめぐる小説
  • 著者:リチャード・フラナガン
  • 翻訳:渡辺 佐智江
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(414ページ)
  • 発売日:2024-06-20
  • ISBN-10:4560091102
  • ISBN-13:978-4560091104
内容紹介:
「ブッカー賞」を受賞した『奥のほそ道』が日本でも大好評を得た、タスマニア出身の鬼才による、「英連邦作家賞」受賞作品。 時代は十九世紀、本書の主人公「ウィリアム・ビューロウ・グールド… もっと読む
「ブッカー賞」を受賞した『奥のほそ道』が日本でも大好評を得た、タスマニア出身の鬼才による、「英連邦作家賞」受賞作品。 時代は十九世紀、本書の主人公「ウィリアム・ビューロウ・グールド」はイギリスの救貧院で育ち、アメリカに渡ってから画家オーデュポンから絵を学ぶ。しかし偽造などの罪で、英植民地タスマニアのサラ島に流刑となる。 科学者として認められたい島の外科医ランプリエールは、グールドの画才に目をつけ、生物調査として、彼に魚類画を描かせる。ある日、外科医は無残な死を遂げる。 グールドは殺害の罪に問われ、海水が満ちてくる残虐な獄につながられる。絞首刑の日を待つグールド……その衝撃的な最期とは? 歴史、伝記、メタフィクション、マジックリアリズム、ポストコロニアルなどの趣向を凝らした、変幻自在の万華鏡。奇怪な夢想と驚きに満ちた世界が展開される。 「大傑作」(『タイムズ』)、「『白鯨』の魚版」(『ニューヨーク・タイムズ』)など、世界で絶賛の嵐を巻き起こした、作家の代表作。 色刷り魚類画十二点収録。

魚が語る複雑な歴史小説

作家は、ある日偶然、魚の水彩画に出会う。描いたのは、ウィリアム・ビューロウ・グールド。描かれたのはもう二百年近くも前のことだった。

作家の名前はリチャード・フラナガン。オーストラリアのタスマニア在住。フラナガンは、グールドについて調べる。何よりその水彩画に魅入られる。写実的な画風でありながら奇妙に人間的な顔をくっつけた(人面!)魚たちを眺めつづけるうち、魚の視点から自分を取り巻く環境、絵が描かれた経緯を語ることを思いつく。そしてこの本が出来上がった。

十二の魚の図版を各章の扉の配した美しい本である。グールドの水彩画もみんなみたくなるほど。そして、原著では章ごとに活字のインクまで変えてあった(翻訳本では、残念だが二色)。語られるのは、元流刑地だったタスマニアを含めたオーストラリアの歴史に取材した架空の物語。

何しろ魚が語っているのだ。縦横無尽にいろんな引用ができる。環境問題やアボリジニの現在にも深く関与し行動する作家が、支配される側の視点から描き尽くした複雑な歴史小説。それにしても、奇天烈な魚!


グールド魚類画帖[新装版]:十二の魚をめぐる小説 / リチャード・フラナガン
グールド魚類画帖[新装版]:十二の魚をめぐる小説
  • 著者:リチャード・フラナガン
  • 翻訳:渡辺 佐智江
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(414ページ)
  • 発売日:2024-06-20
  • ISBN-10:4560091102
  • ISBN-13:978-4560091104
内容紹介:
「ブッカー賞」を受賞した『奥のほそ道』が日本でも大好評を得た、タスマニア出身の鬼才による、「英連邦作家賞」受賞作品。 時代は十九世紀、本書の主人公「ウィリアム・ビューロウ・グールド… もっと読む
「ブッカー賞」を受賞した『奥のほそ道』が日本でも大好評を得た、タスマニア出身の鬼才による、「英連邦作家賞」受賞作品。 時代は十九世紀、本書の主人公「ウィリアム・ビューロウ・グールド」はイギリスの救貧院で育ち、アメリカに渡ってから画家オーデュポンから絵を学ぶ。しかし偽造などの罪で、英植民地タスマニアのサラ島に流刑となる。 科学者として認められたい島の外科医ランプリエールは、グールドの画才に目をつけ、生物調査として、彼に魚類画を描かせる。ある日、外科医は無残な死を遂げる。 グールドは殺害の罪に問われ、海水が満ちてくる残虐な獄につながられる。絞首刑の日を待つグールド……その衝撃的な最期とは? 歴史、伝記、メタフィクション、マジックリアリズム、ポストコロニアルなどの趣向を凝らした、変幻自在の万華鏡。奇怪な夢想と驚きに満ちた世界が展開される。 「大傑作」(『タイムズ』)、「『白鯨』の魚版」(『ニューヨーク・タイムズ』)など、世界で絶賛の嵐を巻き起こした、作家の代表作。 色刷り魚類画十二点収録。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2005年09月1日

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