ユーモア漂う独特の文体
小沢信男さんは、1927年、銀座西8丁目育ち。小説やエッセイ、評伝、あるいは書評や詩、俳句を書いてきた。そのどれにも著者の育った東京の姿が映し出されている。本書には小沢さんの文業のすべて、というより、ベスト盤の趣(おもむ)きがある。収められた文章のどれにも、独特のユーモアが漂い、魅力的な文体に引き込まれる。
比較的短い文章が多い中で、評者には「佐多稲子の東京地図」が面白かった。佐多が人生の変節のたびに東京を東から西へと移動したという指摘に深く納得した。「何重にもかさなるものを透視する面白さ」、と小沢さんは佐多の本を評しているが、オリジナル編集のこの文庫にも同じ感想を持つ。確かな観察眼が素晴らしい。