書評
『青が破れる』(河出書房新社)
狭い人間関係、3人の死
ボクサーになりたいと思っている主人公の「秋吉」には「とう子」という思いを寄せる人がいる。余命が短い。もう一人、「夏澄(かすみ)」という恋人もいる。彼女は人妻で子どももいる。秋吉には親しい友人がいる。やはりボクサーを目指している……。人間関係はごく限られている。その狭い関係性の中で、小説は人間の存在の脆(もろ)い部分をふいに掬(すく)い上げる。短い小説の中で、三人もの人が死ぬ。その死を具体的な感情で塗りこめるのではなく、そこにある、何か抽象的なものとして主人公は捉えている。
最後、バタバタと人が死んで、その死を感じることを拒むように、秋吉が「ロードワーク」に出る場面は、出色。第53回文芸賞受賞作。
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