日中台、言語入り混じる空間
小さい頃に日本にやってきた主人公・琴子は、世界には2つの「ことば」がある、と思っていた。おうちの中のことばと外のことば。台湾人の母親と日本人の父親の間に生まれ、日本で育った彼女が、20歳近くなって上海に語学留学する。その短い時間の中で感受する、言語の壁、僅かだが大きな差別の圧力、そして青春の甘酸っぱさ。笑顔が魅力的な琴子は、言語の交錯する地点に自分の居場所を探すのだが……。日本語、中国語、そして台湾語の入り混じった小説空間が、頁を開けた瞬間、読者の目の前に広がる。その経験だけでも、この小説を手に取る価値がある。声高に多言語を叫ぶ必要はない。本作を読めばいいのだから。