母語と国語の間で悩む人々
十の物語が詰まっている。ごく短い小説には、それぞれの主人公がいて、みな一様に空港で過ごし、そこから記憶が立ちあがる。たいていの登場人物は、著者の個人的な経験を反映させたものと思われる。台湾に生まれた者。日本語を話し、書くけれども、「中華民国」の旅行券を持つ者。成長するプロセスで「中国語」という言語を身につけてきた経験を持つ者。温又柔(おんゆうじゅう)の真骨頂だ。
人物たちは、母語と国語の間に悩んだり、打ちのめされたりする。ただ、台湾と日本への「入境」と「上陸」を繰り返す彼らにとって、空港という場所はとても似つかわしく、不思議な魅力に満ちたところとして描かれている。