書評

『クルト・ヴァイルの世界──実験的オペラからミュージカルへ』(岩波書店)

  • 2026/03/04
クルト・ヴァイルの世界──実験的オペラからミュージカルへ / 大田 美佐子
クルト・ヴァイルの世界──実験的オペラからミュージカルへ
  • 著者:大田 美佐子
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(494ページ)
  • 発売日:2022-03-09
  • ISBN-10:4000226452
  • ISBN-13:978-4000226455
内容紹介:
ブレヒトと作った《三文オペラ》の作曲家として有名なヴァイル。若くしてヨーロッパで成功を収めたが、ナチスに追われアメリカに亡命。戦後、ミュージカル界での成功を「大衆迎合主義」への転… もっと読む
ブレヒトと作った《三文オペラ》の作曲家として有名なヴァイル。若くしてヨーロッパで成功を収めたが、ナチスに追われアメリカに亡命。戦後、ミュージカル界での成功を「大衆迎合主義」への転向とアドルノに批判され、その豊かな世界は忘れられる。没後70年を経て再評価が進む「二つのヴァイル」の実像を詳細に描き出す。

“三文オペラ”と「二人のヴァイル」
第1部(デッサウから世界へ;踊るベルリン;“三文オペラ”の熱狂とオペラの実験;ヴァイルとブレヒトのアメリカ;闘うヴァイル)
第2部(亡命の哀歌;アメリカで見た景色;ダビデの星と星条旗;ドラマとしてのミュージカル;社会派音楽劇の軌跡)
文化的記憶としての“三文オペラ”

革新者の全体像を構築

大田美佐子の秀作『クルト・ヴァイルの世界』は、新たな評伝を書く意欲に満ち満ちている。しかも、ヴァイル自身の定義「今日の演劇が人間を描こうとするならば、音楽はこれまでのような心理的な性格づけの役割を捨てて、人間を描くことを第一に考える必要がある」を、本書のなかで見事に実現している。ヴァイルの「人間」が、構築的に描かれているからだ。

ベルリンの南西、デッサウに生まれ、現代音楽の作曲家として出発した。ヴァイル音楽、ブレヒト劇作の『三文オペラ』の成功によって、従来のオペラの枠にとらわれず、新たな音楽劇を作り上げた。アメリカ文化、とりわけジャズの影響を受けて画期的な革新をなしとげた彼は、ナチスに追われてアメリカに亡命し、ブロードウェイの世界でも活動を行った。本書は「二つのヴァイル」を、ひとりの人間の知的な営為として一貫させる。

大衆に迎合したかのような批判は、成功者に対してつきものの論難である。音楽出版社との思惑の食い違いも興味深い。著者は、クラッシックが上、ミュージカルが下とは、考えない。なかでも『闇の中の女』の分析がすぐれている。精神分析や夢判断をテーマとしたこの作品で、ヴァイルがその音楽の身振りをコントラスト豊かに描き分けていると評する。1940年代初頭、強い女性を、アクロバティックな演出で描いた様子は、映画『スター!』(68年)で垣間見ることができる。

本書の特色は、何よりヴァイル自身が書き残した文章を適切かつ簡潔に引用しているところにある。また、当時の批評なども例証として用い、彼の生きた時代が浮かび上がる。NYフィルの指揮者で『ウエスト・サイド・ストーリー』の作曲家でもあるレナード・バーンスタインが『闇の中の女』を「ドイツで修行した成果のすべてをブロードウェイに注ぎ込んだ」と評したのも興味深い。

周到な調査と考察に裏付けられ、読み物としても成熟している。本書の成功は、大田の清涼な文体によるものだ。
クルト・ヴァイルの世界──実験的オペラからミュージカルへ / 大田 美佐子
クルト・ヴァイルの世界──実験的オペラからミュージカルへ
  • 著者:大田 美佐子
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(494ページ)
  • 発売日:2022-03-09
  • ISBN-10:4000226452
  • ISBN-13:978-4000226455
内容紹介:
ブレヒトと作った《三文オペラ》の作曲家として有名なヴァイル。若くしてヨーロッパで成功を収めたが、ナチスに追われアメリカに亡命。戦後、ミュージカル界での成功を「大衆迎合主義」への転… もっと読む
ブレヒトと作った《三文オペラ》の作曲家として有名なヴァイル。若くしてヨーロッパで成功を収めたが、ナチスに追われアメリカに亡命。戦後、ミュージカル界での成功を「大衆迎合主義」への転向とアドルノに批判され、その豊かな世界は忘れられる。没後70年を経て再評価が進む「二つのヴァイル」の実像を詳細に描き出す。

“三文オペラ”と「二人のヴァイル」
第1部(デッサウから世界へ;踊るベルリン;“三文オペラ”の熱狂とオペラの実験;ヴァイルとブレヒトのアメリカ;闘うヴァイル)
第2部(亡命の哀歌;アメリカで見た景色;ダビデの星と星条旗;ドラマとしてのミュージカル;社会派音楽劇の軌跡)
文化的記憶としての“三文オペラ”

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

東京新聞

東京新聞 :2022年5月7日/中日新聞:2022年5月8日

ALL REVIEWS 書評講座(オンライン受講) ≫オンラインで参加する
現地満席|オンライン参加OK
「読む」側から、 「書く」側へ。
オンライン参加OK/過去回アーカイブ付。
全12回・途中申込OK。豪華講師陣の書評講座、開催中。
  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
長谷部 浩の書評/解説/選評
ページトップへ