書評

『ゲイルズバーグの春を愛す』(早川書房)

  • 2017/07/04
ゲイルズバーグの春を愛す / ジャック・フィニイ
ゲイルズバーグの春を愛す
  • 著者:ジャック・フィニイ
  • 翻訳:福島 正実
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(334ページ)
  • 発売日:1980-11-01
  • ISBN-10:4150200262
  • ISBN-13:978-4150200268
内容紹介:
由緒ある静かな街ゲイルズバーグ。この街に近代化の波が押し寄せる時、奇妙な事件が起こる……表題作他、現代人の青年とヴィクトリア朝時代の乙女とのラヴ・ロマンスを綴る「愛の手紙」など、甘く、せつなく、ホロ苦い物語の数々をファンタジイ界の第一人者がノスタルジックな旋律にのせて贈る魅惑の幻想世界。

時を超える「愛の手紙」

きのう紹介したロバート・F・ヤング「たんぽぽ娘」の初出は、ノーマン・ロックウェルの表紙で有名なアメリカの高級週刊誌〈サタデー・イブニング・ポスト〉。最盛期は100万部を超え、原稿料が高いことでも有名。それだけに、この雑誌から数々の名作が生まれている。同誌1959年8月1日号に掲載されたジャック・フィニイ「愛の手紙」もそのひとつ(福島正実訳、ハヤカワ文庫FT『ゲイルズバーグの春を愛す』に収録)。著者は古き良き時代の女性との“時を超えた恋”を描きつづけた作家で、「愛の手紙」も時代を隔てた相手との文通がテーマ。

時は1961年。語り手の“ぼく”は、古道具屋で買った年代物の机の隠し引き出しから、80年前に書かれた手紙を見つける。それは、ヘレンという女性が空想上の思い人に宛てたラブレターだった。その文面に魅了された“ぼく”は衝動的に返信をしたため、古い郵便局のポストに投函(とうかん)する。1週間後、もうひとつの引き出しを開けると、そこにはヘレンからの返事が……。

隠し引き出しが三つというのがミソで、いま読んでも、すごくよくできてます。原題は“Love Letter”。以前、時間SFロマンスを集めた『不思議の扉 時をかける恋』という中高生向きのアンソロジーを角川文庫で編んだとき、自分で新訳して、現代風に「机の中のラブレター」という訳題をつけたんですが、やっぱり「愛の手紙」のままのほうがよかった気が。

この短編以降、“時を超える文通”という魅惑的なモチーフは、さまざまなかたちで変奏されてきた。映画では、岩井俊二監督の「Love Letter」と、それに影響を受けた韓国の「イルマーレ」が典型例。日本の小説だと、朱川湊人「栞の恋」とか、万城目学「長持の恋」とか。時間の壁に隔てられているため、男女が直接会えないのがポイント。時間ものとロマンスはもともと相性がいいんですが、中でもこういう“時代差ラブストーリー”はとくに人気が高い。みんなやっぱり、叶(かな)わぬ恋が好きなのか。
ゲイルズバーグの春を愛す / ジャック・フィニイ
ゲイルズバーグの春を愛す
  • 著者:ジャック・フィニイ
  • 翻訳:福島 正実
  • 出版社:早川書房
  • 装丁:文庫(334ページ)
  • 発売日:1980-11-01
  • ISBN-10:4150200262
  • ISBN-13:978-4150200268
内容紹介:
由緒ある静かな街ゲイルズバーグ。この街に近代化の波が押し寄せる時、奇妙な事件が起こる……表題作他、現代人の青年とヴィクトリア朝時代の乙女とのラヴ・ロマンスを綴る「愛の手紙」など、甘く、せつなく、ホロ苦い物語の数々をファンタジイ界の第一人者がノスタルジックな旋律にのせて贈る魅惑の幻想世界。

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西日本新聞 2015年6月18日

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