書評
『超動く家にて 宮内悠介短編集』(東京創元社)
驚きあきれる傑作快作多数
宮内悠介は、ジャンルの垣根を越えて、今もっとも注目される作家。昨年だけでも、エンタメ系の吉川英治文学新人賞と純文系の三島由紀夫賞を獲得し、さらには3度めの直木賞候補、2度めの芥川賞候補に選ばれた(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2018年)。本書は、その宮内悠介の(連作を除く)初の短編集。とんでもなくぶっ飛んだアイデアを核にしたバカミス/バカSF系の作品を中心に、全16編を収める。最大の特徴は、過去の10冊であまり表に出ていなかった著者のオタク的資質と、卓抜な(時に脱力させる)ギャグセンスの全開ぶり。なにしろ、本書のために書き下ろした新作が、サイバーパンクSFの巨匠ギブスンの名作短編を村上春樹スタイルでリライトする、その名も「クローム再襲撃」ですからね。2022年のジェイズ・バーで“僕”とボビイが出会う!
表題作は、綾辻行人『十角館の殺人』(+歌野晶午『動く家の殺人』その他いろいろ)をネタにした新本格パスティーシュ(模作)。現場は、マニ車(くるくる回るチベット仏教の仏具)を模して設計されたメゾン・ド・マニ。そこで起きた連続殺人の謎に、エラリイとルルウが挑む(なぜ題名に“超”がつくかは、読めばわかります)。
他にも、ヴァン・ダインの二十則が支配する世界で主人公が完全犯罪を目論(もくろ)む倒叙ミステリ「法則」とか、ウィキペディアのスタイルを模した「エラリー・クイーン数」とか、ミステリマニア爆笑のディープな短編がそろう。
僕が個人的に偏愛するのは、実在の雑誌「トランジスタ技術」の広告ページを切りとって薄くする架空競技の行く末をスポーツ・ノンフィクション風に描く、巻頭の「トランジスタ技術の圧縮」。宇宙ステーションを舞台に、白熱の「野球盤」(エポック社)対決をアイデアたっぷりに描く前代未聞の盤上遊戯小説「星間野球」もすばらしい。
その他、日めくりカレンダーの1日が消えた謎をめぐる本格ミステリ掌編「今日泥棒」など、よくもまあこんなバカなことを…と驚きあきれる傑作快作多数。著者の意外な素顔(?)が垣間見える一冊だ。