書評
『コンスエラ―七つの愛の狂気』(中央公論新社)
ケモノバカならずとも「なんでえぇぇーっ!」と憤怒に駆られずにはおられなかった衝撃のラストが用意されている、ハイパーリアリズム系不条理寓話小説『ティモレオン』に先だって刊行された、これはダン・ローズの短篇集。さて、かの超傑作を読んだ方なら忘れちゃいけないのが、少女のように愛らしい瞳を持つ雑種犬ティモレンが旅の途上ですれ違った人々にまつわるエピソードが綴られていく第二部の素晴らしさでありましょう。特に聾唖の娘と不良少年の出会いを描いた「ジュゼッペまたはレオナルド・ダ・ヴィンチ」にノックアウトされた方、よかったですね、この短篇集には「ヴィオロンチェロ」「ごみ埋立地」という、それ路線の傑作が収まっております。
どちらも、ココロは報われない愛。前者はチェロを弾く少女に恋をした少年の常軌を逸した選択が、なぁーんの意味もなさない無惨な結末を迎える様を描いており、後者はごみの埋立事業に並々ならぬ意欲と情熱を捧げる美少女に、永遠の愛を捧げた青年の青春残酷物語になっているのです。こうなってほしいなという読者の期待をことごとく裏切り、人生に対する甘い幻想を打ち砕き、昨今巷で流行している流れるそばからすぐに乾いてしまうお手軽な癒し系涙を断固拒否するダン・ローズの小説は、しかし、ここが不思議で面白いところなんですけども、意外と陰惨な後味を残さない。絵に描いたようなハッピー・エンドはひとつもないのに、なぜか読後感が不愉快ではないんです。むしろ、すとんと胴に落ちるというか。多分、それは乾いたユーモア・センスゆえでありましょう。
とりわけ顕著なのが表題作。村で一番裕福な家に生まれ育った青年ペリコが、貧農の娘コンスエラを見初めて結婚します。ところが、とてつもなく美しいコンスエラはその美ゆえに、ペリコの愛が本物なのか不安でたまりません。この人、あたしの美しさを愛してるだけなんじゃないのかしら。かくして――。そこからの展開の可笑しさ切なさは、ぜひ、自分でご確認下さい。コンスエラの疑惑は美人にありがちな不安の現れなのかもしれませんが、それを超克するために作者がコンスエラとペリコに課す試練は超ド級。決してものを食べながら読まれませんように。衷心(ちゅうしん)ながら申し上げておきます。
【この書評が収録されている書籍】
どちらも、ココロは報われない愛。前者はチェロを弾く少女に恋をした少年の常軌を逸した選択が、なぁーんの意味もなさない無惨な結末を迎える様を描いており、後者はごみの埋立事業に並々ならぬ意欲と情熱を捧げる美少女に、永遠の愛を捧げた青年の青春残酷物語になっているのです。こうなってほしいなという読者の期待をことごとく裏切り、人生に対する甘い幻想を打ち砕き、昨今巷で流行している流れるそばからすぐに乾いてしまうお手軽な癒し系涙を断固拒否するダン・ローズの小説は、しかし、ここが不思議で面白いところなんですけども、意外と陰惨な後味を残さない。絵に描いたようなハッピー・エンドはひとつもないのに、なぜか読後感が不愉快ではないんです。むしろ、すとんと胴に落ちるというか。多分、それは乾いたユーモア・センスゆえでありましょう。
とりわけ顕著なのが表題作。村で一番裕福な家に生まれ育った青年ペリコが、貧農の娘コンスエラを見初めて結婚します。ところが、とてつもなく美しいコンスエラはその美ゆえに、ペリコの愛が本物なのか不安でたまりません。この人、あたしの美しさを愛してるだけなんじゃないのかしら。かくして――。そこからの展開の可笑しさ切なさは、ぜひ、自分でご確認下さい。コンスエラの疑惑は美人にありがちな不安の現れなのかもしれませんが、それを超克するために作者がコンスエラとペリコに課す試練は超ド級。決してものを食べながら読まれませんように。衷心(ちゅうしん)ながら申し上げておきます。
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