後書き

『白の服飾史:人はなぜ「白」を着るのか』(原書房)

  • 2023/10/18
白の服飾史:人はなぜ「白」を着るのか / ニーナ・エドワーズ
白の服飾史:人はなぜ「白」を着るのか
  • 著者:ニーナ・エドワーズ
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2023-08-28
  • ISBN-10:4562073365
  • ISBN-13:978-4562073368
ワイシャツ、下着、産着、シーツ、ウェディングドレス、喪服、白衣、修道服――誰もが着たことがあったり、目にしたことがある「白い服」。長い年月をかけて塗り重ねられてきた、あまりにも多くの特別な意味に迫った書籍『白の服飾史』から、訳者あとがきを公開します。

矛盾だらけの白の意味

ロンドン在住の著作家ニーナ・エドワーズは本書で古今のさまざまな文化における白い装いの歴史に分け入り、「白」のもつ多様な意味を明らかにしていく。その視野はアートやファッションから社会風俗や実用まで、幅広い領域におよぶ。最近でこそ色としての地位を確立したといえるものの、白は長らく黒と同様に色の不在(無色)と見られてきた。白は富や権威のしるしとなることもあれば、無垢や従順をあらわすことも、死を暗示することもある。「古代の神々」や「聖職者」や「下着」など興味をそそるテーマごとに章分けした論考に、文学や映画からの的確な引用や豊富な図版が添えられた本書は、読みごたえのある1冊になっている。

近年、色をテーマとした本の出版が続いているが、タイトルの『白の服飾史 人はなぜ「白」を着るのか』で示唆されるように、本書はとくに白の服飾史、さらには「白」を着るという身体的な経験に着目した内容になっている。白を着るとき、人は何を考え、選び、(意識しているか否かにかかわらず)どのような効果をねらっているのか、またそこにはどのような文化的な背景があるのか――著者エドワーズは自身の体験をふりかえりながら(初聖体拝領式で着たフロックドレスとヴェール)、人が「白」を着る意味を考察していく。

原題になっている“pazazz”という言葉は、“pizazz”の異形だ。本書の序で「一九六〇年代〈ヴォーグ〉誌で編集者をつとめたダイアナ・ヴリーランドが生みだした、ファッションの精神と魅力を想起させる言葉」と簡単に説明されているが、おもしろい言葉なので、もう少し詳しくご紹介することにしよう。手元のランダムハウス英和辞典には、「活力」や「あかぬけしたスタイル」という語義が載っている。Oxford English Dictionary で引くと、”an attractive combination of vitality and glamour”とあり、日本語にすると「活気と魅力の好ましい組み合わせ」だが、そもそも口語の意味を辞書で把握するのは難しい。そこで大元に戻り、ヴリーランドが初めてこの言葉を記したとされる〈Harper's Bazaar〉誌1937年3月号の記事を参照したところ、“Pizazz……is and indefinable dynamic quality……for instance, adding Scotch puts the pizazz into a drink……There?s pizazz in this rust evening coat”とあり、「“pizazz”は言葉にできない活き活きした性質」であって、たとえばスコッチを加えた飲み物や、さび色の夜会服には「”pizazz”がある」と述べられていた。もともとファッション業界で使われはじめた言葉”pizazz”は、今では「華」や「粋」を感じさせるもの、「わくわくさせるような性質やスタイル」をもつものに、広く使われている。

ひと言で定義することのできない、「白」のもつ“pizazz” を多角的に浮き彫りにしようとした意欲作である本書は、『モツの歴史』(2015年 原書房)や『雑草の文化誌』(2022年 原書房)など、新鮮な切り口の文化史を得意とするエドワーズの作品のなかでも、白眉となるのではないだろうか。

[書き手]高里ひろ(翻訳家)
白の服飾史:人はなぜ「白」を着るのか / ニーナ・エドワーズ
白の服飾史:人はなぜ「白」を着るのか
  • 著者:ニーナ・エドワーズ
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(288ページ)
  • 発売日:2023-08-28
  • ISBN-10:4562073365
  • ISBN-13:978-4562073368

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