読みにくい文章を書かないための実用書である。悪文の実例がたくさん出てくる。法律の文章もあれば新聞記事もある。有名な作家の小説もある。なぜその文章が読みにくいのか、文章の構造を図解で示す。
悪文にはいくつかのパターンがある。たとえば、主格と述語の関係がわかりにくい文章。あるいは、語の修飾関係がわかりにくい文章。悪文を防ぐには、文章をできるだけ短くして、語と語の関係に注意を払う。語の選択も重要だ。法律の条文や機械の取扱説明書、クレジットカードの規約文などを書く人には、ぜひ本書を熟読していただきたい。きわめて実用的な本だ。
さて、若いころのぼくなら、「なるほどなあ」と感心し、さっそく実践しようと思っただろう。でも、現在のぼくは、悪文の実例をひとつひとつ読みながら「これはこれで、味があるなあ」と感じる。たとえば著者は野坂昭如の『火垂るの墓』を引用し、文章のリズムがあり、雰囲気はあるが、<論理はひどく不透明である>という。だけど野坂の文章はちょっと読むだけで野坂の声が頭の中で聞こえてくる。悪文だからこその魅力だろうか。