デビュー作『となり町戦争』から21年後の戦争小説。名前も位置も不明な敵国「未確認隣接国家(UNC)」から侵略を受けているこの国。国内は戦時体制となり、国民は互いを監視し合う。「ネット空間を快適に保つための環境保全五原則(通称カホゴ)」によって不謹慎な投稿も封じられている。政府は戦意高揚のため、敵国からの攻撃をでっち上げる「顕戦工作」を行う。国民の間では、理想郷「ミシラヌ」への憧れが高まっていく。
じつはこの戦争は戦場も戦死者もいない架空の戦争だ。政府も戦争ではなく「非平和状態」と言い換える。なぜそんなことをするのか。それは、戦時中だ、非常時だと言えば、国民はおとなしく従うから。
これはばかばかしいファンタジーだろうか。いやいや、リアルな小説だ。「侵略されている」と主張すれば、国民は国家への信頼度を上げ、好戦的になる。ウクライナへの「特別軍事作戦」をおこなうプーチンしかり、ガザでジェノサイドを続けるネタニエフしかり。経済・貿易に置き換えればトランプもしかり。軍事的な脅威や経済的な脅威を煽(あお)ることばは、眉に唾して聞かなければならない。