コラム

角田 光代「2018 この3冊」|リチャード・フラナガン『奥のほそ道』(白水社)、ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』(新潮社)、姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋)

  • 2019/01/02

2018 この3冊

(1)『奥のほそ道』リチャード・フラナガン著、渡辺佐智江訳(白水社)

(2)『最初の悪い男』ミランダ・ジュライ著、岸本佐知子訳(新潮クレスト・ブックス)

(3)『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ著(文藝春秋)



『奥のほそ道』は第二次世界大戦時、泰緬(たいめん)鉄道建設に捕虜としてたずさわった若き医師を中心に、その地獄のような日々をさまざまな角度から緻密に冷徹に描き出し、戦後、生き延びた人々の抱える空疎を、重みを持って描く。その長い時間のなかに、たったひとつ、ひっかき傷のように残されたある愛のかたちに衝撃を受けた。『最初の悪い男』の語り手シェリルが、妄想と空想の世界からひっぱり出され、言葉で分類できない関係に放りこまれ、そのカオスから自分自身と世界をつかみとる様は、私に不安と爽快を同時に味わわせる。『彼女は頭が悪いから』を読んでいて感じる薄気味悪さ、不快さは、たぶん、私自身も持っている醜悪さと、そんなものは持っていないと主張したい無自覚さに、まざまざと向き合わされるからだ。その動揺もまた深い感動であると知らしめてくれた三冊。

奥のほそ道 / リチャード・フラナガン
奥のほそ道
  • 著者:リチャード・フラナガン
  • 翻訳:渡辺 佐智江
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(454ページ)
  • 発売日:2018-05-26
  • ISBN-10:4560096295
  • ISBN-13:978-4560096291
内容紹介:
1943年、捕虜の軍医ドリゴは〈死の鉄道〉建設で地獄のような日々を闘っていた。そこへ一通の手紙が届きすべてが変わってしまう…

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最初の悪い男 / ミランダ・ジュライ
最初の悪い男
  • 著者:ミランダ・ジュライ
  • 翻訳:岸本 佐知子
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(346ページ)
  • 発売日:2018-08-24
  • ISBN-10:4105901508
  • ISBN-13:978-4105901509
内容紹介:
わたしの愛するベイビー、いつになったらまたあなたをこの腕に抱けるの? どこまでも奇妙で切実な愛に導かれた奇跡。待望の初長篇。

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彼女は頭が悪いから / 姫野 カオルコ
彼女は頭が悪いから
  • 著者:姫野 カオルコ
  • 出版社:文藝春秋
  • 装丁:単行本(473ページ)
  • 発売日:2018-07-20
  • ISBN-10:4163908722
  • ISBN-13:978-4163908724
内容紹介:
東大生による集団わいせつ事件。しかし、世間に叩かれたのはなぜか被害者の女子大生だった。鬼才姫野ワールド全開の新しい犯罪小説。

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毎日新聞

毎日新聞 2018年12月9日

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