コラム
角田 光代「2018 この3冊」|リチャード・フラナガン『奥のほそ道』(白水社)、ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』(新潮社)、姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』(文藝春秋)
2018 この3冊
(1)『奥のほそ道』リチャード・フラナガン著、渡辺佐智江訳(白水社)
(2)『最初の悪い男』ミランダ・ジュライ著、岸本佐知子訳(新潮クレスト・ブックス)
(3)『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ著(文藝春秋)
『奥のほそ道』は第二次世界大戦時、泰緬(たいめん)鉄道建設に捕虜としてたずさわった若き医師を中心に、その地獄のような日々をさまざまな角度から緻密に冷徹に描き出し、戦後、生き延びた人々の抱える空疎を、重みを持って描く。その長い時間のなかに、たったひとつ、ひっかき傷のように残されたある愛のかたちに衝撃を受けた。『最初の悪い男』の語り手シェリルが、妄想と空想の世界からひっぱり出され、言葉で分類できない関係に放りこまれ、そのカオスから自分自身と世界をつかみとる様は、私に不安と爽快を同時に味わわせる。『彼女は頭が悪いから』を読んでいて感じる薄気味悪さ、不快さは、たぶん、私自身も持っている醜悪さと、そんなものは持っていないと主張したい無自覚さに、まざまざと向き合わされるからだ。その動揺もまた深い感動であると知らしめてくれた三冊。
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