内容紹介
『アニソン大全 ーー「鉄腕アトム」から「鬼滅の刃」まで』(祥伝社)
作品に隣接する音楽へ:2020年代のJ-POPアニソン論
2020年代のアニソンシーンを語るうえで欠かせないのが、J-POPアーティストの存在感だ。いまや多くのヒット曲がアニメタイアップとして生まれ、アニメ作品との親和性が極めて高いと感じさせるものが多い。J-POPアニソンは、1990年代から作品との距離とアーティスト自身の音楽性のバランスを図りながら作られていたが、そのなかには楽曲の素晴らしさは別にしても、アニメと著しく“離れた”楽曲があったのも事実。しかし現在のJ-POPアニソンは、単なる主題歌にとどまらず、作品世界へ深く踏み込んだ表現を獲得しつつある。本稿では、クリエイターの世代背景や楽曲構造の変化に注目しながら、現代アニソンの現在地を探っていく。
人気J-POPアーティストによる現在のアニソン
さて、現在のアニソンシーンを見渡してみると、J-POPアーティストによるアニソンが主流であるという印象が強い。過去の歴史を見てみれば、J-POPアーティストによるアニメタイアップが今に始まったことではないことはわかるだろう。しかし、2020年代はその傾向に拍車がかかり、多くの音楽ユーザーが想像するアニソンはJ-POPアーティストによるものになっている。あるいは視点を変えると、J-POPアーティストによるヒット曲の多くがアニメタイアップであるという事実にぶつかるはずだ。例えば、今や日本のトップアーティストとして認められる米津玄師の2025年に入ってからのリリースは〈BOW AND ARROW〉(TVアニメ「メダリスト」OPテーマ)、〈Plazma〉(TVアニメ「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」OPテーマ)、〈IRIS OUT〉(「劇場版チェンソーマン レゼ篇」主題歌)とアニメ主題歌が続いている。これは極端な一例であるが、このほかにも多くのアーティストの新曲がアニメタイアップとなっていることに変わりない。このようにJ-POPアーティストあるいはレーベルにとって、アニソンが良質なタイアップ先になっているというのが2020年代の傾向となる。
そうしたなかでJ-POPアーティストによるアニソンを聴いていくと、これまでとは違った変化がおぼろげにでも見えてくる。昨今ヒットしているJ-POPアニソンは、アニメ作品との親和性が極めて高いと感じさせるものが多いという点だ。もちろんすべてがそうであるとは断言できないし、あるいは過去がそうでなかったとも言い切れない。しかしJ-POPアニソンは、1990年代から作品との距離と自身の音楽性のバランスを図りながら作られていき、そのなかには(楽曲の素晴らしさとは別にして)アニメと著しく“離れた”楽曲があったのも事実だ。それがしばしばアニメ/アニソンユーザーによるJ-POPアニソンへのハレーションを起こしていた歴史がある。しかし現在のJ-POPアニソンとは、そうしたものと比べて作品との距離の近さを感じさせる歌詞世界やサウンドが多く、いわゆる原作や脚本など“作品を読み込んでいる”と思わせる楽曲が多いことに気づく。
アニソンを作ることにアレルギーを生じない世代
この理由にはさまざまな仮説を立てることができる。まずは「鬼滅の刃」をはじめアニメが幅広い年代にリーチするトレンドへと成長したことがあり、作品あるいはアニメそのものを支持するユーザー層が幅広くなったことで、それに向けた音楽性の幅もまた広がったことが考えられる。また、こうした傾向は2000年代以降のアニソンの盛り上がりが少なからず一因になったとも仮定できる。現在活躍するアーティストの多くは「NARUTO -ナルト-」「BLEACH」「銀魂」など、2000年代以降のTVアニメにおける良質なアニソンに数多く触れて育ってきた世代だ。それは1990年代以前の「アニメは子どもやオタクが観るもの」といった極端なイメージとは異なるものであろう。あるいは、2000年代のニコニコ動画などネットからオタクカルチャーに自然と触れていた者も多いはずだ。そういった影響が現在になって噴出したとも仮定できる。いわばアニソンを作ることにアレルギーを生じない世代による音楽が、アニソンとして鳴らされているのが現在といえる。そして、そうした傾向をとみに感じる楽曲にはやはり素晴らしいものが多い。現在のJ-POPアーティストたちは、過去の影響を吸収しながら改めて良質なアニソンを作り上げているのだ。例えば2019年に〈Pretender〉でブレイクを果たしたバンド・Official髭男dismは、藤原聡によるさまざまな作品に対応した歌詞世界、ならびに卓越した演奏技術を含む音楽性でアニメ世界と隣接した楽曲を数々リリースしている。不良とタイムリープというテーマを歌詞と複雑な進行で打ち出した〈Cry Baby〉(TVアニメ「東京リベンジャーズ」OPテーマ)や、登場人物である少女・アーニャの好物であるピーナッツとフォージャー家といういびつな家族をモチーフにした〈ミックスナッツ〉(TVアニメ「SPY×FAMILY」OPテーマ)、青春や恋愛の焦燥感を変拍子で表現した〈Same Blue〉(TVアニメ「アオのハコ」OPテーマ)など良質なアニソンが数多くある。仮にすべてが意図したものではなかったとしても、いずれもが作品のイメージを想起させ、同時にそのアーティストの音楽性が存分に発揮された音楽が展開されている。
また現在のJ-POPシーンのトップバンドに君臨するMrs. GREEN APPLEも、2024年にレコード大賞を受賞した〈ライラック〉(TVアニメ「忘却バッテリー」OPテーマ)をはじめ素晴らしいアニソンを数々作り上げている。彼らのアニソンの歴史は2015年の〈Speaking〉(TVアニメ「遊☆戯☆王 ARC-V」EDテーマ)から始まり、2020年には〈インフェルノ〉(TVアニメ「炎炎ノ消防隊」OPテーマ)がヒットを記録、シーンを代表するバンドに上りつめた2025年には〈クスシキ〉(TVアニメ「薬屋のひとりごと」OPテーマ)がヒットしている。
作品に隣接した世界を描くだけではない、「89秒」を意識したつくり
そのいずれもにいえる作品と楽曲のマッチングはもちろんのこと、耳を惹くのは構成の巧みさだ。アニソンは、89秒という限られた時間のなかで完結される音楽性によって、現在までの発展を生んできた。そこで彼らのアニソン、そのなかでもアニメで流れるTVサイズといわれる89秒のバージョンを聴いてみると、イントロからAメロ~Bメロ~サビ~アウトロといった基本だけではない、そこから発展した構成を見つけることができる。具体的には最初のサビのあとに転調してもう一度サビが聴かれる、あるいはサビの前にDメロといわれる新しいパートを挿入するなど、基本的な構成にとどまらない工夫がふんだんに盛り込まれている。例えば〈ライラック〉では、ライトハンド奏法を含んだクリーントーンのイントロという昨今のトレンドを含みながらAメロ、Bメロを経てサビに突入する。そしてその後もう一度転調して再びサビの後半を聴かせるという二段構えだ。これにより、アニメのオープニングで見せ場となるサビでの映像的盛り上がりが2回訪れ、それによって作品の魅力を倍化、あるいは複数の側面から映し出すという効果が生まれる。ミセスが仕掛けてきたすべてのアニソンにこうした傾向が聴かれるのだから、ある種意図的にそうした構成を作っているのだと思われる。作品に隣接した世界を描くだけではなく、アニメで流れることを意識したつくりは、紛れもないアニソンであるといえるだろう。
【書き手】
澄川龍一(すみかわ・りゅういち)
音楽ライター。1978年9月11日生まれ。北海道札幌市出身。2002年にタワーレコード株式会社入社、主に洋楽CDシングルバイヤーに携わる。その後bounce編集部を経て、2007年からはフリーライターとしてアニメ音楽を中心にインタビュー、執筆活動を開始。2010年からはアニメ音楽誌「リスアニ!」(ソニー・ミュージックソリューションズ)の編集・執筆に関わり、2016年に編集長就任。現在はフリーの音楽ライターとして主にアニメ音楽の評論を行なうほか、大学・専門学校での講義、イベント司会、音楽プロデュース、ラジオパーソナリティ、DJなど幅広く活動。2025年4月からは音楽メディア「AMJ -Anime Music Journal-」をYouTubeにてスタート。本書が初の単著となる。
・AMJ -Anime Music Journal-
https://youtube.com/@animemusicjournal?si=fgLaRjg0ftHHoa4M
本稿は『アニソン大全 「鉄腕アトム」から「鬼滅の刃」まで』(祥伝社)より一部抜粋のうえ作成
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