読書日記

内澤旬子『漂うままに島に着き』(朝日新聞出版)、トーベ・ヤンソン『島暮らしの記録』(筑摩書房)、島尾ミホ『海辺の生と死』(中央公論新社)

  • 2018/11/30

人生を海、島とともに

「人が多すぎる東京から脱出したい」と、中年になってとみに感じるものの移住するガッツはなく、「ま、このまま住み続けるのだろう」と思っている私。しかし<1>内澤旬子『漂うままに島に着き』(朝日新聞出版・1,620円)を読んで、嫉妬のような感情が湧き上がってきました。

四十代で独り身の著者。東京に嫌気がさして、エイヤとばかりに小豆島に移住した顛末(てんまつ)が本書には記されます。様々な困難があるものの、著者は逃げずに飄々(ひょうひょう)と対処。とうとう、海を眺めつつヤギと暮らす環境を手中にします。

未来への不安は、もちろんある。しかし自らの欲求に従い、石橋を叩(たた)かずに足を踏み出すその軽やかさに私は嫉妬したのであり、本書を読んでいるつかの間、自分も東京を脱出したかのような気分になることができました。

漂うままに島に着き / 内澤旬子
漂うままに島に着き
  • 著者:内澤旬子
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 装丁:単行本(272ページ)
  • 発売日:2016-08-19
  • ISBN:4022514035

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「ムーミン」シリーズの著者であるトーベ・ヤンソンもまた、島を愛した女性であり、毎夏をフィンランドの島の小屋で過ごしていました。<2>『島暮らしの記録』(冨原眞弓訳、筑摩書房・2,052円)にはその一端が描かれており、挿画は島暮らしを共にするパートナーによるもの。

しかしその暮らしは、ハードです。夏とはいえフィンランドの海は、相当寒そう。小屋があるのは島というより小さな岩礁で、木が一本しか生えていない所なのです。

しかし彼女達は、自転車のようにボートを操り、泳ぎ、釣り(というより漁)をします。北欧の人々にとって海と島は、切っても切れない関係にあるのです。

そんな彼女がある日感じたのは、「海が怖くなった」こと。そのことによって自らの年齢を実感する彼女の人生はまさに、海と島と共にあったのでしょう。

島暮らしの記録 / トーベ・ヤンソン
島暮らしの記録
  • 著者:トーベ・ヤンソン
  • 出版社:筑摩書房
  • 装丁:単行本(167ページ)
  • 発売日:1999-07-01
  • ISBN:4480837051
内容紹介:
作者とその実母ハム、そして親友のトゥーリッキと猫のプシプシーナ。トーベあるいはムーミン物語の読者におなじみのそれぞれが、四方に水平線しかない小さな離れ孤島で、悠々とマイペースに、気ままな自然の魅力とともに暮らす。通算80年にわたる島暮らしのプロフェッショナルみずからが描く、作家の知られざる日常。

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島尾ミホは、奄美大島のすぐ隣にある、加計呂麻(かけろま)島の旧家に生まれました。戦時中、島に駐屯していた特攻隊長の島尾敏雄と出会い、敗戦後に結婚したのです。

ミホの子供時代、加計呂麻島を訪れた人々の思い出が<3>『海辺の生と死』(中公文庫・700円)に綴(つづ)られます。沖縄芝居の役者、踊り子、そして赤穂浪士を語る浪曲師。様々な地の人がそこには流れついたのであり、島尾隊長もまた、その一人。

島尾隊長がいよいよ特攻出撃となった夜の、ミホのおこないはまさに、「この一晩が、一生」。しかし特攻は行われずに戦争は終わり、二人は『死の棘(とげ)』へと向かっていくのです。

海辺の生と死 / 島尾 ミホ
海辺の生と死
  • 著者:島尾 ミホ
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:文庫(239ページ)
  • 発売日:2013-07-23
  • ISBN:4122058163
内容紹介:
幼い日、夜ごと、子守歌のように、母がきかせてくれた奄美の昔話。南の離れ島の暮しや風物。慕わしい父と母のこと-記憶の奥に刻まれた幼時の思い出と特攻隊長として島に駐屯した夫島尾敏雄との出会いなどを、ひたむきな眼差しで心のままに綴る。第十五回田村俊子賞受賞作。

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2016年9月

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