書評
『日本文学の大地』(KADOKAWA)
未来の手引書としての古典
古典とは五百年後、千年後に爆発する一種の時限爆弾である。伝統とは単に先祖が作った型や技を踏襲することでなく、現代の行き詰まりを打開する秘術として用いることも含まれる。井原西鶴が「源氏物語」をリサイクルすることで、江戸町人文化の起爆剤にしたように、古典には時代ごとに新たな息吹を吹き込まれてきた。自然と文化、夢と現実、感覚と論理、信仰と生活が表裏一体だった時代の日本人は、それらが切り離された近代以後を生きている私たちと較べ、実におおらかで、思考のスケールが大きい。私たちの直接の先祖でありながら、その繊細な感覚や大胆な行動に圧倒される。標準化され、飼い馴らされた現代人の限界をやすやすと乗り越える知性が古典には秘められているが、それを発見するには、それこそ今日の現実の外に生きている人の力を借りる必要がある。たとえば、自身の脳の中にタイムマシンを内蔵している中沢新一のような人の力を。朝日新聞 2015年4月19日
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