書評
『音楽の進化史』(河出書房新社)
洗練への過程、謎解きの面白さ
古代の骨笛からボーカロイドまで、洞窟での宗教儀礼からiTunesまで、偶然の発見や複雑な体系化を経て、音楽は紆余曲折(うよきょくせつ)の進化の道筋を辿(たど)ってきた。私たちは現在、壮大な音楽アーカイブを私有し、時と場所を選ばず、あらゆる時代と地域の音楽を聞くことができるし、どんな風変わりな音楽にも耐えられる耳を獲得したが、どのような経緯と理由によって、この音楽の多様性に行き着いたかほとんど何も知らない。音楽にまつわる歴史的因果を解き明かす本はこれまでありそうでなかった。本書は主に西洋音楽の音階や和声、リズムやジャンルがどのようにして発見され、洗練されてきたかをなぞってみせる。
ヴェネチアのサンマルコ広場の素晴らしい音響効果がオペラやブラスバンドの揺り籠になったこと、1オクターブが12音で構成される背景、対位法芸術の極致ともいうべきバッハの楽曲の秘密などが謎解きされてゆく過程は凡百のミステリーを凌(しの)ぐ面白さだ。
朝日新聞 2014年7月20日
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