書評
『言葉と爆弾』(法政大学出版局)
異文化の拒絶、深まる世界の傷
伝統と世代交代を縦糸に、ドラッグや同性愛、排他主義、移民のイスラム信仰などが横糸に絡む多文化共生社会独特のカオスは二十世紀末に実に多彩なポップカルチャーを生み出した。本書の作者ハニフ・クレイシ自身も映画のシナリオや小説を通じ、ロンドンの移民社会の表と裏を描いてきた。「テロとの戦争」以来、欧米社会が排他主義を強化すればするほど、それを鏡に映したようにイスラム原理主義が広がった。イスラム過激派に身を投じる欧米出身の移民の子たちの意識に何が起きたのか? その屈折の原点をパキスタン系移民の子としてロンドンに生まれ、ポップカルチャーの洗礼を受けつつ、移民差別にも晒(さら)された作者自身の告白に垣間見ることもできる。差別と復讐、どちらの根も深いが、他者の理解を拒めば、傷口はさらに深くなり、自分で自分の首を絞める結果となる。社会の健全さと活力は多様な主義主張を何処(どこ)まで許容できるかに懸かっている。
朝日新聞 2015年7月19日
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