フランツ・マルクは一八八〇年、ミュンヘン生まれの画家。カンディンスキーらと年鑑『青騎士』の編集に携わった。
本書はマルクと一歳年上の友人パウル・クレーの、絵葉書のやりとりをまとめたものである。すべて自筆の絵を添えたみごとな作品で、文面ではマルクの妻マリアとクレーの妻リリーもことばを交わしている。
モノクロームの線の画家クレーが色彩の世界に参入する契機となったのは、一九一四年のチュニジア旅行だとされているのだが、クレーはすでに一九一一年の『青騎士』の企画で、ドロネーの色に遭遇していた。そしてチュニジアでの開眼の前に、友人の画風にも影響を受けていたのである。
マルクは一九一六年、第一次世界大戦に従軍して命を落とした。彼の絵葉書に登場する動物たちは、間近の死を感じさせない、あたたかな抽象性をまとっている。その抽象が「動物たちの感じている世界だったのではないか」とする編者の指摘は正しい。マルクの仕事を振り返り、クレーがそれをどのように消化したのかをたどり直したくなる。