読書日記

ジェイ・ルービン編『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』(新潮社)、ジム・フジーリ『ペット・サウンズ』(新潮社)、ベン・グリーンマン『ブライアン・ウィルソン自伝』(DU BOOKS)

  • 2019/05/22

村上春樹に誘われて

〔1〕ジェイ・ルービン編『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』(新潮社・三八八八円)を買うつもりになったのは、村上春樹の翻訳で知られる編者がどんな短篇を選んだのかという興味以上に、村上による序文が気になったからだった。新刊アナウンスに、村上が三島由紀夫の解説を書いたとあったのだ。

春樹が三島について語っただって!?

村上は三島のことを、ずっと「読んでない、興味がない」と突き放してきた。そんな村上が三島の作品を論じたというのだから事件だ。しかもルービンのセレクトは、あの「憂国」である。この切腹小説について村上は、作品世界の「是非はともかく、ここに描かれたひとつの想念の徹底した純化ぶりに、文学として評価すべきものがあることは認めないわけにはいかないはずだ」と述べていた。苦しげである。

それにしても、ルービンの日本文学に対する目配りの広さと深さはちょっと驚異的だ。「いったいどこからこんなユニークな短編小説を見つけ出してきたのだろう?」と村上も舌を巻いている。関東大震災から原爆を経て三・一一へと至る「災厄 天災及び人災」と題した章で締め括(くく)った構成も感慨が深い。

ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29 /
ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29
  • 編集:ジェイ・ルービン
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(489ページ)
  • 発売日:2019-02-27
  • ISBN-10:4103534362
  • ISBN-13:978-4103534365
内容紹介:
世界基準で面白く、イキのいい短篇はこれだ! 三島、百閒、星新一、小川洋子etc.…村上春樹が全収録作を評した序文50枚付き!

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村上は、小説の書き方を、小説よりも音楽から学んだと言ってきた。なかでもビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンは特別な場所に置かれている。〔2〕ジム・フジーリ『ペット・サウンズ』(新潮文庫・五二九円)は、ブライアンの極点とされる同題のアルバムを一冊かけて論じた本だ。翻訳は村上。現在でこそビートルズの名盤に並ぶ評価を得ているこのアルバムだが、長らく理解されず、ブライアンは精神を病んでいった。

不幸な少年時代を『ペット・サウンズ』に救われたフジーリは、精神の感応に従い「崩壊の瀬戸際にある青年の、悩みや傷心や不安や寂寥(せきりょう)の物語」を聴き取る。熱く、冷静に。村上は「ブライアン・ウィルソンの音楽が僕の心を打ったのは、彼が『手の届かない遠い場所』にあるものごとについて真摯(しんし)に懸命に歌っていたからではないだろうか」と書いたことがある。ほとんど、ある時期までの自分の作品を評した言葉のように響く。

ペット・サウンズ / ジム・フジーリ
ペット・サウンズ
  • 著者:ジム・フジーリ
  • 翻訳:村上 春樹
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(219ページ)
  • 発売日:2011-11-28
  • ISBN-10:4102179615
  • ISBN-13:978-4102179611
内容紹介:
1966年に発表されたビーチ・ボーイズの名盤『ペット・サウンズ』。それまでのグループのイメージを覆したこのアルバムは当初、メンバーやファンを戸惑わせ、天才的リーダー、ブライアン・ウィ… もっと読む
1966年に発表されたビーチ・ボーイズの名盤『ペット・サウンズ』。それまでのグループのイメージを覆したこのアルバムは当初、メンバーやファンを戸惑わせ、天才的リーダー、ブライアン・ウィルソンの人生を大きく変えていく。恋愛への憧れと挫折、抑圧的な父親との確執、ドラッグ、引きこもり-。「幸福についての哀しい歌の集まり」とも評された、一人の繊細な青年の愛と絶望の軌跡。

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ベストセラー作家ベン・グリーンマンの手を借りた〔3〕『ブライアン・ウィルソン自伝』(松永良平訳、DU BOOKS・三二四〇円)が邦訳された。自身の口で語られる創作をめぐるあれこれは、興味深いものの、ファンには既知のことが多いかもしれない。注目すべきは、精神が崩壊に瀕(ひん)した最悪の時期の話でも不思議にトーンが明るいことだ。「素敵(すてき)なものがなくなるのを見るのは、とてもつらいよね」なんて具合に。まったく彼の音楽と同じトーンなのだ。

ブライアン・ウィルソン自伝 I Am Brian Wilson / ブライアン・ウィルソン
ブライアン・ウィルソン自伝 I Am Brian Wilson
  • 著者:ブライアン・ウィルソン
  • 翻訳:松永 良平
  • 出版社:DU BOOKS
  • 装丁:単行本(520ページ)
  • 発売日:2019-03-15
  • ISBN-10:4866470267
  • ISBN-13:978-4866470269
内容紹介:
ポピュラー音楽史上、最も優れた音楽家が自身の手で綴った初めての自叙伝。

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初出メディア

東京新聞

東京新聞 2019年5月

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