読書日記
キャス・サンスティーン『シンプルな政府』(NTT出版)、『命の価値』(勁草書房)、『スター・ウォーズによると世界は』(早川書房)
人に優しい政府とは
昨年末にキャス・サンスティーンの翻訳が立て続けに三冊出た。(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2018年2月)多作で、関与する領域も広いこの人物を簡単に紹介するのは難しい。本業は法学者だが行政学や環境学にも詳しい。動物の権利について論じてもいる。今日のポスト・トゥルースを予見したかのような『インターネットは民主主義の敵か』を十五年も前に発表している。ビッグデータに関する著作もある。経済学にも通暁しており、先日ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラーとの『実践 行動経済学』という共著も持っている。2009年から12年にかけては、オバマ大統領の下、ホワイトハウス情報規制問題室(OIRA)の室長を務めた。
<1>『シンプルな政府-"規制"をいかにデザインするか』(田総恵子訳、NTT出版・3,024円)と<2>『命の価値-規制国家に人間味を』(山形浩生訳、勁草書房・2,916円)の2冊は、OIRAでの経験を元に、政府による規制について書いたものだ。OIRAの役割は主に規制の見直しと制定だが、彼が何より重視するのは、それがシンプルであること、である。
<1>が説くシンプルな規制は、政府の機能を縮小するいわゆる「小さな政府」とは違う。スマホの操作性を例に「ユーザーフレンドリー(使う人に優しい)」という言い方をしているが、人々が意識することなく生活を向上できるよう、効率的に規制を設計することを意味している。そこでフィーチャーされるのが行動経済学から導かれる「ナッジ」だ。「軽く肘で突く」ほどの意味で、人々の自由を損なうことなく良い決定ができるように選択の枠組みをデザインすることを指す。
だがナッジ云々(うんぬん)の前に、その規制が有益かどうかの判定がまずなされねばならない。実施する費用と得られる便益を秤(はかり)にかけて、便益が上回らないようでは意味がない。<2>はその費用便益分析について論じたものだ。費用や便益がお金に換算できる場合は話が早いが、評価が難しいものもある。人の尊厳や、究極的には人命がそうだ。人命に値段をつけるなんて許しがたい! と反射的に思ってしまった人にこそ本書はおすすめしたい。副題の「人間味」とはそういうことだ。
最後に<3>『スター・ウォーズによると世界は』(山形浩生訳、早川書房・2,160円)。かの映画を素材に広範な知見を縦横無尽に披歴したもの…では全然なく(多少はあるんだけど)、あのサンスティーンがなぜこんな本を!? と波紋を広げた趣味丸出しのオタク本である。客観性を装いもっともらしく論じたあとに、主観を押し付け「文句あるか」と啖呵を切る、実に「人間味」に溢れた本だ(笑)。
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