書評
『ウンコな議論』(筑摩書房)
トヨザキ的評価軸:
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
本書がアングラ怪文書として人気を博したのは七〇年代だそうですが、この憂うべき事態が二十一世紀に入っても改善されていないのは、日本という国で暮らし、USAというおためごかしの権化のような大国の影響下に生きていれば自明でありましょう。訳者・山形浩生さんの解説にもあるとおり、〈はぐらかし、ごまかし、その場しのぎの口から出任せ。我が国の(現時点の)首相がそうした議論の天才であることは論を待たない〉のだし、そのウンコ議論の最たる発言が「人生いろいろ」であることに異論を唱える人もおりますまい。いわんや、アメリカが唱えるイラク侵攻を正当化する言論をや。
自説を展開するのに有益な時だけ事実に目を向け、自分の発言が現実を正しくトレースしているかを気にもせず、嘘であろうが真実であろうが、目的にあわせて適当に選び出し、あるいはでっちあげてしまう。なにゆえ、そんなウンコ議論というまやかしが蔓延するようになったのか。フランクファートはその原因を、市民意識の歪んだ浸透のせいで、知らないことについて意見を求められる際にあって「わからない」とは言いにくい風潮が広がったことに求めています。また、世界を理解するための客観的判断に対する不信感の増大(「立場によって現実の見え方は変わる」という物言い)によって、世界にではなく自分自身に対して誠実であろうとする態度(「自分以外はみな風景」という心性)が是とされている思考力の退行も、この風潮に拍車をかけていると看破。
これ、本論だけなら六十ページにも満たないコンパクトな本ですけど、中味は相当濃厚。コンデンス・フィロソフィなんですの。頭の悪いわたしなんぞ三回も読み直しました、山形さんの明快な解説に助けられながら。しかも、フランクファートは「ウンコ議論にどう対処したらいいのか」という疑問には答えてくれていません。そのくらい自分で考えろっつーことでありましょう。ウンコな議論をしがちな自分への戒めとして、折に触れては読み返す価値ある本。一家に一冊備えて下さいますように。
【この書評が収録されている書籍】
◎「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
世にはびこる“ウンコな議論”を戒める価値ある一冊
どっちつかずの安全地帯から、論点とはピントのずれた話をだらだら続けたり、その話題についてろくに知りもしないくせして得々と自説を披露したがる。はい、それが“ウンコな議論”の正体であります。著者にして道徳哲学のスペシャリスト、フランクファートは、この本の冒頭でこう記しています。現代文化の顕著な特徴というのは、それが実に多くのウンコな議論や屈のごとき理屈にまみれているということである
本書がアングラ怪文書として人気を博したのは七〇年代だそうですが、この憂うべき事態が二十一世紀に入っても改善されていないのは、日本という国で暮らし、USAというおためごかしの権化のような大国の影響下に生きていれば自明でありましょう。訳者・山形浩生さんの解説にもあるとおり、〈はぐらかし、ごまかし、その場しのぎの口から出任せ。我が国の(現時点の)首相がそうした議論の天才であることは論を待たない〉のだし、そのウンコ議論の最たる発言が「人生いろいろ」であることに異論を唱える人もおりますまい。いわんや、アメリカが唱えるイラク侵攻を正当化する言論をや。
自説を展開するのに有益な時だけ事実に目を向け、自分の発言が現実を正しくトレースしているかを気にもせず、嘘であろうが真実であろうが、目的にあわせて適当に選び出し、あるいはでっちあげてしまう。なにゆえ、そんなウンコ議論というまやかしが蔓延するようになったのか。フランクファートはその原因を、市民意識の歪んだ浸透のせいで、知らないことについて意見を求められる際にあって「わからない」とは言いにくい風潮が広がったことに求めています。また、世界を理解するための客観的判断に対する不信感の増大(「立場によって現実の見え方は変わる」という物言い)によって、世界にではなく自分自身に対して誠実であろうとする態度(「自分以外はみな風景」という心性)が是とされている思考力の退行も、この風潮に拍車をかけていると看破。
これ、本論だけなら六十ページにも満たないコンパクトな本ですけど、中味は相当濃厚。コンデンス・フィロソフィなんですの。頭の悪いわたしなんぞ三回も読み直しました、山形さんの明快な解説に助けられながら。しかも、フランクファートは「ウンコ議論にどう対処したらいいのか」という疑問には答えてくれていません。そのくらい自分で考えろっつーことでありましょう。ウンコな議論をしがちな自分への戒めとして、折に触れては読み返す価値ある本。一家に一冊備えて下さいますように。
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