コラム
斎藤環「2018 この3冊」|松本卓也『享楽社会論』(人文書院)、ヨハン・ノルベリ『進歩 人類の未来が明るい10の理由』(晶文社)、岡﨑乾二郎『抽象の力』(亜紀書房)
2018 この3冊
(1)『享楽社会論 現代ラカン派の展開』松本卓也著(人文書院)
(2)『進歩 人類の未来が明るい10の理由』ヨハン・ノルベリ著、山形浩生訳(晶文社)
(3)『抽象の力 近代芸術の解析』岡﨑乾二郎著(亜紀書房)
(1)ラカン派の俊英による社会論。ラカンを精緻に読み解きながらも原理主義に陥らない柔軟性に新世代の希望を感ずる。アルゴリズム化する思想の潮流に抗(あらが)う主体の思想を擁護する立場から、著者の姿勢は応援したい。
(2)悲観的な未来予測は無数にあるが、人口統計上は、世界はあらゆる面で良くなっている。暴力も差別も貧困も、一〇〇年単位で見れば激減しているのだ。進歩を破壊しないためには、正しい知識の継承が必要と著者は説く。
(3)芸術とは、諸感覚から普遍的な秩序=形式を把握する抽象作用という認識プロセスにかかわるための装置である。美術史の深層構造に、こうした「抽象に至るプロセス」を想定し、豊富な図版とともに美術史を再定義する大著。決定版とも言うべき熊谷守一論も読み応えがある。
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