書評
『ストーカーとの七〇〇日戦争』(文藝春秋)
憤りで身体がわなわなと震える、という読書を久しぶりにした。
緻密なイラストでも知られる文筆家の著者の身にふりかかった、元恋人による執拗な付きまといと嫌がらせ。2年に渡る壮絶な戦いの経緯を綴った手記だ。小豆島でヤギと暮らす著者は、自分の身と生活を守るため、警察や法律の専門家に対処と助けを求める。なんと元恋人には前科があり、偽名を使っていたことが判明。彼は脅迫罪で逮捕されるが、著者の不安は消えないどころか、更に濃くなってゆく。
なぜか。接触を禁じる内容の示談を作成したのに、彼が会いたがっていると弁護士が連絡をよこしてくる。LINEへ口汚いメッセージが届く。ネットの大手掲示板に延々と誹謗中傷を書かれる……示談違反だと相手に警告し、やめさせてくれる立場の人が、信じがたいことに誰もいないのだ。引っ越しなどの不自由を強いられ、不快さを我慢し続け、片時も恐怖から解放されない理不尽さを訴えると、ある弁護士にはこう言われる。「この国の制度では、これが限界ってところですね」。
制度の限界。絶望的な言葉。しかし著者は、ストーカーに関する本を読んでいくなかで、加害者への治療という希望があることを知る。一線を越えたストーカー行為は精神疾患の疑いがあり、それゆえ「治る」可能性があるのだ。著者がこの経験談を書きあげたのは、治療への道筋をどうにかして作りたいというその一心からなのだということが、読み進めるうちに分かってくる。被害者を救い、平穏な暮らしを担保してくれるのはこの方法しかないのではないか。それがどれだけ切実かつまっとうな訴えであるか、読者は体感するように知る。
〈本稿を執筆することができていなかったらA(元恋人)への殺意を抑えることができたかどうか、正直自信がない〉というほど、極限の精神状態の中で書かれた一冊。社会を変え得るノンフィクションだ。
緻密なイラストでも知られる文筆家の著者の身にふりかかった、元恋人による執拗な付きまといと嫌がらせ。2年に渡る壮絶な戦いの経緯を綴った手記だ。小豆島でヤギと暮らす著者は、自分の身と生活を守るため、警察や法律の専門家に対処と助けを求める。なんと元恋人には前科があり、偽名を使っていたことが判明。彼は脅迫罪で逮捕されるが、著者の不安は消えないどころか、更に濃くなってゆく。
なぜか。接触を禁じる内容の示談を作成したのに、彼が会いたがっていると弁護士が連絡をよこしてくる。LINEへ口汚いメッセージが届く。ネットの大手掲示板に延々と誹謗中傷を書かれる……示談違反だと相手に警告し、やめさせてくれる立場の人が、信じがたいことに誰もいないのだ。引っ越しなどの不自由を強いられ、不快さを我慢し続け、片時も恐怖から解放されない理不尽さを訴えると、ある弁護士にはこう言われる。「この国の制度では、これが限界ってところですね」。
制度の限界。絶望的な言葉。しかし著者は、ストーカーに関する本を読んでいくなかで、加害者への治療という希望があることを知る。一線を越えたストーカー行為は精神疾患の疑いがあり、それゆえ「治る」可能性があるのだ。著者がこの経験談を書きあげたのは、治療への道筋をどうにかして作りたいというその一心からなのだということが、読み進めるうちに分かってくる。被害者を救い、平穏な暮らしを担保してくれるのはこの方法しかないのではないか。それがどれだけ切実かつまっとうな訴えであるか、読者は体感するように知る。
〈本稿を執筆することができていなかったらA(元恋人)への殺意を抑えることができたかどうか、正直自信がない〉というほど、極限の精神状態の中で書かれた一冊。社会を変え得るノンフィクションだ。
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