書評

『夢も見ずに眠った。』(河出書房新社)

  • 2019/03/25
夢も見ずに眠った。 / 絲山秋子
夢も見ずに眠った。
  • 著者:絲山秋子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2019-01-26
  • ISBN:4309027717
内容紹介:
夫を熊谷に残し、札幌へ単身赴任した沙和子。次第にすれ違い、二人は離別へと向かったのだが……新たな夫婦像を描く傑作長編。

日本各地の風景が映し出す、一組の夫婦が歩む道筋

ある夫婦の、四半世紀の物語だ。

布施高之と沙和子は大学時代に知り合い、高之が失業中に結婚。金融機関に勤めている沙和子は、婿養子に入った夫を経済的に支えるかたちになっている。仕事が長続きしない夫とは対照的に、沙和子は中間管理職として36歳で札幌に単身赴任。一方、義両親と埼玉の熊谷で暮らす高之は、うつ病の兆候を示し始める──。

格差婚とも言える2人の関係の推移を映し出すのは、高之と沙和子が共に、あるいは1人で訪れる土地の風景だ。岡山、滋賀、岩手、東京の佃島や青梅、横浜。12の章のすべてに、そのときどきの目的で足を運んだ場所での2人の心模様が、風通しのいい、それでいて適切な湿度を保った文章で描かれる。第1章の冒頭に置かれたいさかい、沙和子が高之の心の不調に気づいたきっかけ、高之が沙和子にある決断を告げたホテル。その瞬間、そこにいたからこそ生まれた感情、交わした言葉が、取り替えのきかないものとして読み手の胸に沁み込んでゆく。

気まずく、ぎくしゃくした空気が漂っていても、食べ物の話をすると少しばかり深刻さが薄れるとか、緻密な計画を立てたのに電車の乗り換えの接続がうまくいかないとか、旅の小さなシーンに投影される2人の距離の機微がいとおしい。お互いへの情を持ち続けながらもすれ違い、それぞれの内心で自問を重ねる夫婦がどこへ向かうのか、当事者のような気持ちでストーリーを追う読者も少なくないだろう。人が人を知ろうとすることに終わりはないのだと、読後思わずにはいられない。

日本各地の地域の魅力を、物語に有機的に作用させることに定評のある著者の、夫婦小説でありロードノベルでもある稀有な1作。男女が永遠にワルツを踊り続けているような表紙カバーの装画が、作品の雰囲気を静かにサポートしている。
夢も見ずに眠った。 / 絲山秋子
夢も見ずに眠った。
  • 著者:絲山秋子
  • 出版社:河出書房新社
  • 装丁:単行本(304ページ)
  • 発売日:2019-01-26
  • ISBN:4309027717
内容紹介:
夫を熊谷に残し、札幌へ単身赴任した沙和子。次第にすれ違い、二人は離別へと向かったのだが……新たな夫婦像を描く傑作長編。

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初出メディア

週刊SPA!

週刊SPA! 2019年3月5日号

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